「ど、どういうことですか」
「俺がききてぇ」

結論から言うと、田噛と名乗ったこの青年は、どういうわけかしばらく私の部屋で生活をおくらなければならなくなったらしかった。 しかし当の本人も何故そんなことになったのかイマイチ把握しきれていない様子で、ダルい……と後頭部をぼりぼり引っ掻いている。
いったいなにが起きているのかまるで理解できなかった私だが、平腹くんに預けたはずの合鍵を彼が私に見せたことで、なにやらまた突拍子もなく面倒なことがはじまったのだということだけは理解できた。
よく見れば彼の着ている服は、平腹くんがいつも身に付けている制服と同じもので彼との接点は言うまでもなく密接なのだ。 それに、田噛という名前は彼がたびたび口にしていたのを私は覚えている。

つまり、私と平腹くんを繋ぐ糸は完全に断ちきられてはいないということだ。
彼がいったいどういう意図でこの男を私のもとへ寄越したのかはしらないが、なにか彼なりに考えがあったのだろう。 ならば私はそれに従うよりほかはない。

しかし、平腹くんの親しい友人である彼とこれから同居をするのだと思うとやましいことがあるわけでもないのに罪悪感に苛まれるのは確かだった。 それは田噛さんも同じなのか、彼は一定の距離から私に近づこうとしない。

「あの」
「あ?」
「平腹くんは、元気ですか……?」
「さぁな。 俺もここしばらくアイツとは会ってねぇよ」
「そ、そうですか……」

それから私たちは途切れ途切れに互いのことについて言葉を交わした。 やはりどうやら彼も、平腹くんと同じように特務室というところで獄卒をやっているらしく、仕事で平腹くんとはよくペアになるらしかった。 ここへは平腹くんに頼まれてきたらしい。 しばらく鍵の持ち主と一緒に暮らしてほしいと頭を下げられたのだそうだ。

「それで、お前はアイツのなんだ」

私は彼のその質問にこたえることができなかった。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -