平腹くんが突拍子もない行動にでるのはいつものことで、だからそのときの私は彼の言葉にどれだけ深刻な彼の悩みが凝縮されていたかなんて考えもしなかった。
私は彼の自由奔放なところをとても気に入っていたし、あれは一種の事故のようなものだった。 だからちっとも気になんてしていなかったのに、まさか当の本人があそこまで思い詰めていたとは。


私の暮らすワンルームに彼がやってくるのはいつものことで、その日も翌日が非番ということで彼は泊まりにきていた。 私たちは会わなかった数日間に起きた出来事について話しながら、食事をした。 それから夜の街を並んで散歩して、お風呂に入り、眠りについた。
彼の性格あってか、私たちの関係性は家族、友人、恋人のどの定義からも外れていた。 さっき話したとおり、まるで年の離れた姉弟のように仲睦まじく夜をすごすような日もあれば、朝まで寝ずに裸で愛し合った日もあり、その関係性がどのように変化するかについての主導権はすべて彼にあった。
翌朝、昨日の子供のような無邪気さとはまるでかけ離れた、獣のような獰猛な目をした彼にベッドに押し倒されそのまま事に及んだ一連の流れはまさに私たちの精神的な力関係を表していたと思う。
そのときの私たちは、まるで世界中に自分たちしか存在していないかのようにお互いに夢中だった。 彼の掴んだシーツはびりびりと音をたてながら裂け、振り回した腕と衝突したランプは無惨に砕け落ちていった。 彼とのセックスは、命懸けだ。 誇張しているわけでも、比喩でもなく。
ランプや時計といった、枕元に置かれた小物や家具が破壊されるのはよくあることで、事後のベッドには大抵なにかの破片が散らばっている。
そんな日が続けば想像するのは容易かった。
たとえば、彼の握る私の手のひらがぐしゃりと音をたてて形を変える様。
あるいは、彼を受け止めきれず内蔵が出血する様。

あのとき、彼は随分と驚いたようだったけれど、いつかこうなるかもしれないとは思っていた。

要するに、左脚を骨折した。
彼とのセックスで。
あまりに間抜けすぎる理由なので、てっきりいつものように笑うのだろうと思っていたのだが、彼は予想外にこの事故を悲観的に受け止めてしまったらしい。

いつもたのしそうに開いている口はかたく閉ざされ、唇をきゅっと一文字に結んでいる青年は患者用の寝間着に身を包む私のことを、なにかめずらしい動物でも見るかのようにじっと見つめていた。

「ごめんなぁ」

彼は備え付けの椅子に腰をおろし、叱られた子供のように頼りない声で言った。
そんな彼にたいして、心配させまいと微笑みかけたのがいけなかったのか、彼はひどく傷ついたような、苦々しい顔をしてとぼとぼと病室から去っていった。

そして、それ以降、私の前には現れなくなった。

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