キリカさんから映画の鑑賞チケットをこっそり二枚譲ってもらったとき、いちばんにきみのきょとんとした愛らしい顔が浮かんだ。 絶対に、きみとふたりで行きたいって思った。
きみは、多分、俺がきみを映画に誘うだなんて予想もしていないから突然のことに面食らってしまうだろう。 でも、そのあとすぐにいつもの人の良い笑顔をつくって「いいよ、たのしみだね」って言ってくれるはず。 きみはひとの好意を絶対に無下にはできない指名を背負う聖女みたく心のやさしい女の子だから。
「いいよ、たのしみだね!」
「ほ、ほんと!?」
彼女が駄目だなんて言うはずないとわかっていたけれど、やっぱり喜ばずにはいられない。 これってもしかしなくてもデートだよね。 恥ずかしくて直視できない彼女の顔をなんとか視線だけでちらりととらえる。
すぐ後ろにものすごくいい笑顔の平腹がいた。
「何時集合にする!?」
「なんでだよ!」
「エッ!?」
「え!?」
「バカか、お前。 佐疫はなまえだけを誘ってんだよ」
「えぇーー!? ヤダッ!オレも行く!」
「い、いやいや……チケット二枚しかないしさ」
「じゃあ佐疫のをくれよ!」
「なんでなんだよ!」