ケネスはもう6時間も椅子に座らせられたままだ。目の前には怖い顔をした男、ランドン。先ほどから同じ事の繰り返しである。

「お前、自分で言ってても可笑しいと思わないのか? インビジブルの時も今回も顔は見てない、助けただけの一点張り。インビジブルの時ならまだしも、今回はそんだけ殴られてるんだ顔くらいは見てるだろ?」
「く、暗くて見えなかったんだよ…」

 ランドンは何度目か分からないため息をついた。しつこいやつだな、と思うが、たしかにランドン程感の鋭い奴はいないので、バレるのも時間の問題だとは思っていたが。

「もう吐けよ、首謀者は自分だってな」

 まさか自分が犯人だと思われるなんて。
 周りにはケネスの発言をメモする部下と、ただケネスを見ているジムだ。警視長ほどのジムがなぜこの取り調べにいるか分からないが、ジムが居るからこそケネスは下手に言えないでいる。相手がランドンだけなら怒ってここを出て行けばいい話だが、ジムが居るならそんな情けない事はしたくなかった。ここはちゃんと弁解しよう、ケネスは咳払いをしてこちらを見ているジムを一度だけ見るとランドンと向き合う。

「あんな、これをして俺になんの利益があるんだ!? ないだろ!?」
「利益? あるだろ。お前は成績が悪かった、だから今回は最後のチャンス。なのにその最後に限ってうまく行くなんてそんな上手い話があるかよ。しかも犯人は捕まっていない。そして、続いて起きた事件もお前の家の近く、しかも帰り道にたまたま起きた? 信じろって方が無茶な話だよ」

 たしかに言われて見ればそういう出世の仕方もあるしどんな形にしろ嘘をついているケネスは肩身が狭くなる。そんなケネスをもっと疑いをかけたランドンは、机をドンと叩き、どうなんだ、と追及してきた。どうもこうも、そんなことはしていない。泣きそうになりながら首を振り続けることしか出来なくなるケネスに、ランドンは苛立ちを隠せなくなった。次は椅子から立つと、机を蹴る。びくり、と体を跳ねさせるケネスと部下にも気にせず、ランドンはケネスの胸ぐらを掴んだ。だが、瞬間、黙って見ていたジムがその手を強く掴み、ランドンを睨みつける。

「熱くなりすぎだ、僕には君が私情も挟んでいる様にしか見えないね」
「おれは別に!」
「言い訳はいいよ、ケネス、今日のところは帰りなさい。明日も仕事早いだろう? 詳しくは今度聞くから」

 ジムはランドンにきつく言うと怯えたケネスを立たせた。疲れと恐怖からか、うまく歩けないケネスの背中に手を回し、取り調べ室から二人で出て行く。ランドンはその後ろ姿を睨みつけると、また机を蹴った。部下がまた驚いて部屋の隅に行くがランドンは知ったこっちゃない。窓を開けてタバコをくわえると、火をつけて一度ふかせた。
 さて、二人はというと、何も話さないままエレベーターに乗り込んでいる。こんな時間に電車は出ていないし一人出歩くのは男と言えど危ないのでジムが経費でタクシーまで呼んでくれた。お礼が言いたいが、ここまでピリピリしたジムは見た事がないので、なかなか言えずにいる。外に記者が待っているとまずいので地下の駐車場にタクシーを待たせているので、地下につくとジムが背中を押してくれた。目の前にタクシーが見えてホッとすると、そこでやっとジムは口を開く。

「君は、僕にも嘘をつくのかい?」

 ケネスの足は止まった。振り向いて彼を見ればジムは険しい顔でこちらを見る。ケネスは唾を飲み込んで、ジムに近付いた。

「フレーザー警視長、貴方に、言わなきゃいけない事があります」
「うん、そうだね。」
「ですが、今は言えない。でもランドンの言った様な事は誓って、神に誓って無いと言えます。ですから、俺を信じてくれませんか…!」

 すがる様に言うケネスに、ジムは顔を顰める。嘘をついている、それだけでもうケネスに対する信頼は欠けていた。だが、それを分かっているがこれ以上信頼をなくしたくない、というのがヒシヒシと伝わってくる。ジムはため息をつきながら頭を抱えると、ケネスの肩に手を置くと優しく叩く。そして無言でタクシーまで連れて行った。ドアを開けてくれるジムに、ケネスは頭を下げるとジムはいつもと同じ様に笑う。

「すいません、何もかもありがとうございました」
「お礼なんていいさ。ただ、ランドンは今注目されている君を敵視していてね。もしまた嘘をつくなら、君はもっと嘘を上手にした方がいい」

 そう言うと、ジムの指先がケネスのほおを撫でる。

「まあ、僕はケネスのそういう分かりやすい所も好きだよ。」

 おやすみ、と言うと頬にキスを送り、運転手にケネスの家を教えた。チップをやると、ジムはドアを閉めて手を振る。タクシーは走り出し、ジムはタクシーが見えなくなるまで見送るがケネスは外を見れないでいた。
 な、なんで、口付けたんだ!?
 おやすみの挨拶は頬同士をつける程度のはずだが、今ジムは完全に口付けたし、その前の触り方はまるで恋人を慰める様な感覚で。ケネスは顔を包む様に両手を広げる。そしてハッと気付いた。

「ひ、髭、触ったのか!?」

 今朝剃ったばかりなのにもう伸びている髭が、手にチクリと刺さる。まさか、フレーザー警視正これを教えるために!? と、馬鹿なことを考えたがそんなはずはない。
 理由は何にしろ、憧れであるが男の人にキスされたのは少しショックだった。

「髭濃いのばれたかな…」

 そして、このコンプレックスを触られたのがもっとショックである。






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