別々の部屋といえど、元々は一つの家。どうやらリビングは共同部屋として使われているらしく、ケネスはそこへ通された。外見のイメージとは違って中は可愛らしい。ウッドテイストな家具に、北欧家具が並ぶ。ケネスとハロルドが向かい合って座り、一言も発さないでいると、もう一人、仲間になる警察がケネスの目の前に紅茶を置いた。

「よくこんな危険な場所に来てくださいました、はじめまして、Mr.ケネス。噂は本部から聞いています。僕はリカードです、以後お見知りおきを」

 と言ってご丁寧に自己紹介したのは、リカードという青年。あどけない笑顔で、青年というより幼い印象だ。だが警察という職についているのだから大学は卒業しているのだろう。イメージからして、この部屋は彼の趣味だろう。落ち着いた雰囲気に少し癒されながらケネスは頷くと、ハロルドは不服そうにため息をついた。

「リカード、君はいつも大切なことを言わない。まさかあのケネスさんが来るなんて」
「僕はちゃんと言ったさ、でもハリーが聞いてなかっただけ。いっつも僕の話をきかないんだからー」

 ハロルドはケネスを上手く持ち上げているが口先は笑っている。小馬鹿にした態度にケネスは苛立ちながらも、何も言わずに足を組んだ。するとリカードは呆れた顔でハロルドの隣座ると、こちらを見てにっこりと笑った。短すぎる短髪の色素の薄い金髪、平凡だが懐っこい顔立ち、ケネスより小柄だが鍛えられた体。そしてこの、青い目。どこかで、見たことがある。
 ん、あの、仮面男?!?!
 初っ端からキスしてきた、得体の知れない通り魔。顔は分からないが、容姿や雰囲気などそっくり過ぎる。違うところと言えば髪の色が違うくらい。だがそんなのスプレーやらカツラやらでどうにかなる。たしかにハロルドと同じ仮面をしていた、となるとこの二人は共犯か。実力は二人の方が遥か上を行く、いつ殺されてもおかしくはなかった。カタカタと震えた手で紅茶を飲むケネスに、リカードは首を傾げる。

「どうしよう、ハリー。ケネスさん、顔は笑ってるけど手震えてるよ」
「さあ、寒いんじゃないか」
「そうなのか、じゃあ僕暖房いれるよ。リモコンどこだっけな」

 リカードが小声で耳打ちすると、ハロルドはとぼけた顔で明後日の方を見た。リカードはしつれい、とだけ言うとリモコンを探しに消えて行く。同時に、ケネスは口を開いた。

「おおおおお俺を殺すつもりか」
「はいはい、被害妄想はそこまで」
「だって、あれ、通り魔、だろ?!」

 ケネスの言葉にリカードを横目で見ると、ハロルドはああ、と呟く。そして、ゆっくり怪しく笑った。

「そこまで鈍感じゃないんだな、雰囲気だけで読み取るなんて。けど半分ハズレ。通り魔は他にいる。彼は今のところ、白、正真正銘の警察だ」

 半分、ハズレ? 今のところ?
 ケネスが聞きたそうに口を半開きにしてると、ハロルドは紅茶を飲む。彼の煎れる紅茶は最高だ、と誰に聞かせるわけではなく呟くと淡い青いセーターのシワを払った。

「ところでお前は、俺らとの関係を怪しまれて異動されたってところか」
「なんで知って…!」
「勘。それよりあんたもう少しポーカーフェイス保ったらどう」

 貶しておきながらも、ケネスを見た時のハロルドの顔は忘れられない。どうやら今回のことはハロルドも予想外だったらしく、今もこうやって仲睦まじく向かい合っているが、ケネスには分かっていた。いつケネスが口を滑らすかわからないので、ハロルドの私服の下には銃を忍ばせている。できるだけ銃口が向かないように、ケネスはリカードの前では自分の口に気をつけることにした。

「ところで、お前警察だったんだな。なんで」
「ふっ、警察とは腐れ縁でね。まあ、ここの交番に来たのは色々調べ物があってだ。そろそろハーツリヒに戻る」
「な、ハーツリヒに?!」

 驚きすぎてソファから立つと、リモコンを持ってきたリカードと目が合う。ケネスは咳払いをすると、席に戻ったリカードに目を向けた。

「これからよろしく、リカードくん。」
「ええ、よろしくお願いします。いやあ、あのケネスさんと仕事できるなんて光栄です」
「そんな、光栄なんて。まあ、仲良くやろう」

 そう笑うリカードは目を輝かせてケネスを見るので、ケネスもつられて笑顔を漏らす。リカードの隣にいるハロルドと、言うと、なんと鼻で笑っているではないか。あまりにもバカにした笑い方なので怒りから持った紅茶のカップが震えて、液面が揺れた。それを見てリカードはまたハロルドに耳打ちする。

「まだ寒いのかなあ」
「さあ、次は暑すぎたんじゃないか」



「ケネスがカジミールに飛ばされた?」

 パーシーが言った言葉をオウム返ししたトニーに、パーシーはソファに体を預けながら頷いた。

「あれ、知らなかった?」
「少し別件に手こずっててさ。それより何故」

 ケネスのことならばなんでも知っているトニーなら知っていると思った、と驚きながら手を合わせる。パーシーとしてはケネスの事なんかより、別件、が気になるがトニーが多くを語らないのならば聞いてもそれ以上は知り得ないのだ。パーシーはエイルマーと世間話していた時にふと出た話題を思い出しながら話して行く。

「なんか、今回トニーが警察襲ってそれをケネスが助けて、トニーは殺さず見逃しただろ? 以前俺らがケネスを見逃してたってこともあるんだけどさ、今回もケネスが活躍して自分は無傷ってのもあって仕組んでるんじゃないのって会議になったらしく。本当は退職までだったらしいけど、警察の上部何人が反対して異動で落ち着いたらしいのよ。それで適当にカジミール」
「だからってハロルドが居るカジミールか。またケネスがハロルドと接近する」
「まあね、残念だった、としか言いようがない。ま、俺はハリーよりリカードの方が心配だけどね」

 トニーの座った椅子の後ろで囁くように言っていたパーシーは、トニーの前へ現れた。そうして、椅子を引っ張ってくるとわざとトニーと向かい合わないように、椅子を斜めに向ける。
 トニーはその行動を目で追いながら、パーシーの言葉にトニーは首を傾げた。

「奴はシロかもしれない」
「言葉を借りるならクロかも」
「クロと分かったのならすぐに捕らえる」

 次々と出てくる言葉に、パーシーは笑う。分かってからじゃ手遅れだ、と言いたいがトニーならばそれが可能とすら思えるからだ。
 トニーの言うことは絶対、言い返しても変わることはないのにパーシーは無駄な言葉達を発する。

「面倒だからいつもみたいに早く殺しちゃえばいいのに、らしくないよ」

 もしリカードがクロなんだとしたら、”あの”危ない人物と一緒にハロルドをいさせるのは仲間として、一刻も早くに辞めさせたかった。あいつが危険な人物と判断したのは、つい三ヶ月ほど前の話だ。可能性は40%と低かったが、トニー達はそれだけの可能性でも見て行く必要があった。だが、相手は公の場にいる唯一の天敵警察、自分たちは犯罪者として顔が割れてる。潜入捜査などできるはずがなく、ハロルドが行くことになったのだが。

「…もしクロなんだとしたら、殺すだけでは済まさない。話を聞かなくちゃならないからね」
「そう。でももしクロなら、ハロルドは危ないだろ。今回ケネスも」

 トニーの弱みを言えば、トニーは予想以上に顔に出した。彼とトニーのことは誰も知らない、ただトニーがケネスに執着しているということだけ。今回の企みは、正直、諦めて欲しかった。たしかに相手がクロなんだとしたら、捕らえて得をするのはトニーを含め五天王。だからこそ、ハロルドも危険すぎるトニーの注文を引き受けた。
 だからと言って、仲間が死ぬかもしれないのを、見て見ぬ振りしろって?
 ふざけんな、言葉に出来ないパーシーはその代わりに唇をかみしめる。トニーはその表情を簡単に見て見ぬ振りすると、愉快そうに笑った。

「今回のことは予想外だった、だからケネスは僕が守る、絶対。けどハロルドが死のうと僕には関係ない」
「…仲間意識ってのは、ないのかねえ」
「仲間なんていらない。パーシー、君ら四人の中で君が一番付き合いが長い。だからわかるでしょ、いい加減僕にそういうの求めないでよ。そして君も、自分が仲間を作れるほど優しくないってことも気付いた方がいい」

 優しい口調なのに、声で分かる、トニーはかなり機嫌が悪くなってきているが、不思議と怖いとも思わない。そう、パーシーは自分を客観視していた。何を発言するべきか分かっているのに、トニーを怒らせるようなことをしたが後悔すらしない、むしろここで殺して貰いたいとも思う。
 罪悪感を感じているようで、開き直っている。トニーの言葉で分かってしまった、結局自分もハロルドの心配をしているふりをしているだけなのだ。仲間がいるという快感に麻痺して、助け合いなどくだらないことをしようとしているだけ、
 トニーは追い打ちをかけるように、は、と息を漏らしパーシーを見た。

「さっきから、革靴のキズを気にしている。磨いてきてもらったら?」

 これが、図星というのか。
 仲間を庇った言葉を並べながら、パーシーが無意識に向けていた目をトニーは気付いていたようである。熱いことを言った覚えはない、だが少しでも仲間を語った自分が恥ずかしかった。パーシーは笑いながら、口を押さえる。

「そうだ、良かったじゃない。ケネスが飛んだら嫌でもコンラッドに近付けないし。まあエイルマーの死ぬ確率が増えちゃったけど」
「彼の情報もマジックも気に入ってるから、ほんとは失いたくないんだけど、彼、弱いからさ。しかもエイルマー自体がコンラッドを任せて欲しいって言ったんだ、適任だろう?」
「そうだねえ、いいんじゃない、人の生死なんて俺に関係ない」

 トニーは下手くそに、笑った。

「僕、君のそういうところ大っ嫌いだし、大好きさ」




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