一言言わせてもらえば、こうなることはどこか分かっていた。

「だから、言ってるでしょう。ただの通り魔です」

 ケネスが腕を組みながら言う。その目線の先は警部だ。警部はランドンが寝ているベットの隣にある椅子に腰を掛けながら、ふてぶてしくケネスを見ると鼻を鳴らす。

「このランドンが? 彼はお前と違って警部補の中でもエース中のエースなんだぞ? それがただの通り魔にやられると思うか」

 それがやられたんです、と言おうとして言葉を飲む。このやり取りは何回目かは忘れた。答えを変えなければきっと警部は納得しない、だが事実なのだ、確かにあいつは強かった、だが得体の知れない者ということで、他の通り魔とはなんら変わりはない。これ以上言っても無駄と思い、ケネスは気を失っているランドンを見ると話すのをやめた。すると警部は、ついに本音を漏らす。

「インビジブルの件からおかしいと思っていたんだ、お前は必ず大きな事件のそばにいてお前だけは無事。そしてお前はヒーロー。今回の件はもっと酷い、お前らこの前殴り合いしたらしいな。なんの事でしたかは分からないが、それからすぐにランドンがこんな目に。なあこれで得しているのは誰だと思う?」

 言われてしまった。ランドンから疑われていた時からこの瞬間を恐れていたのである。そうだ、疑われてもおかしくない、それくらいの出来事が自分の周りで起こっているのだ。
 警部の言いたいことが全てわかって、ケネスは窓枠を小さく殴った。ひどい話だ、自分の上司はケネスを疑っている。きっとケネスが全ての事件を仕組んだとでも言いたいのだろう。
 何故、疑う。何故、自分は何もしていない。信じて、くれ。
 言いたいのに、悔し涙しか出ない。警部が自分を信じてくれないのは、日頃の行いが良くなかったせいだ。確かに、ランドンの方が警部からの信頼は厚い。分かっていたはずなのに、ここまで言われてしまっては立ち直れなかった。

「警部…っ」
「もういい、言い訳は聞きたくない。確かにランドンは優秀だ、いつもお前の上を行っていた。だからって、いつも競い合ってきた仲間をここまでするか」

 そして、警部は椅子から立つとランドンの頭を撫でる。

「君には一時ハーツリヒから出て行ってもらう。小さな交番を任せようと思ってる、そこで頭を冷やせ」

 ランドンの手がぴくりと動いたが、まだ起きる気配はなかった。彼が起きないようにケネスは必死で泣き声を耐える。震える声を抑えて、警部の横を過ぎた。

「お世話になりました、警部」



 そうして、ケネスがやってきた町カジミールという小さな町。だが、小さな町といえどコロネンゴの中でも三つ指に入る極悪町だ。ハーツリヒからは車で二時間くらい走らせたところだが、ハーツリヒ周辺の町と比べてかなり、危ないところである。
 ケネスは駐車場に車を止めると、車から降り、キャリーケースのタイヤを転がせながら自分の家となる社宅を探していた。警部は流石にケネス宅からこの職場は困難と判断したらしく、急いで用意された社宅はどうやら低家賃らしく、パンフレットですら良い印象は受けなかったのを覚えている。
 ただあれだけ疑われて、職を失わなかったのは、不幸中の幸いだ。あの町を出る時に、ジムから電話がかかって来た。それは異動を反対したが、変えられなかったということである。こんな時まで、ジムはケネスを信じ最後まで味方で居てくれたと思うとケネスは胸が熱くなった。きっとまだ警察をやっていられるのも彼のおかげだ。感謝しても感謝しきれない。
 だが、一つ心残りがある。ローナのことだ。エイルマーには断ったばかりだが、さすがにこんな遠くからではローナに助けを呼ばれてもすぐに駆けつけることは出来ない。増して、いま警察共は忙しい。信用もされず危険地帯まで飛ばされたケネスの頼みなど聞いてくれないだろう。ここはエイルマーに頼るしかないと考えていた時、ケネスの足は止まる。

「ここ、か」

 一見ただの家に見えるが中は改造されていて、一つ一つ部屋が分かれているらしいが、その辺りは幽霊でも出るのではないかというくらい、雰囲気は出来上がっていた。ケネスは身震いしたが一度顔に平手うちをして気合を入れると、ドアをノックする。
 確かこの町を二人で守ってるって言ってたなあ、感心感心、仲良くなれるといいけど。呑気に考えていると、階段を降りる音がして、すぐにドアが開いた。第一印象は大切、そう言い聞かせて自分一番の笑顔で笑いかける。

「はじめまして、ハーツリヒから着ました、ケ…?!」
「ああ、話は聞いてます、警部…ほ…?!」

 二人とも言葉を詰まらせる。玄関で向き合ったまま、動かなくなるがそれは当然。
 なんたって相手は、自分が追っていた相手なのだから。

「は、ハロルド?!」
「ケネス・キャボット…!」

 

 




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