ハロルドは昨日、ケネスから一方的に掛けられて来て、また、一方的に切られた電話を見てあの時を思い出していた。まさかケネスから電話が来るとは思わなかったが、それ以上に言われた言葉にびっくりした。ありがとう、なんて、いちいち連絡してきてまでいう必要はない。やはり思った通りに面白い奴だと思うが、そこで頭に過るのはトニーのことだ。
 もう、間違ってもケネスと接触しないようにしよう。
 楽しいことは好きだが、ケネスに近付き過ぎてトニーに反感を食らうのは避けたい。ハロルドは携帯をポケットにしまうと、窓を開けて朝日を浴びた。



「え、俺が?」

 聞き返すと警部はああ、とだけ言って書類を渡すので、ケネスは仕方なく大量の被害届を取る。どうやら最近、被害者が女に限られた窃盗が相次いでいるらしい。手口はナンパをした女性と一日過ごした後、朝になると財布と一緒になくなっているという事だった。男の特徴は全て、長髪の金髪にブロンドの瞳、モデルのようなスタイルで顔はとにかくキレイの一言、だそうだ。彼はとても紳士的、彼との一日は夢のような一日らしく、捕まったのならば連絡先を知りたいという者まで現れている。

「こいつは、パーシー・エリオットの仕業だな。」

 きっとケネスの上司もそう読んで、前に五天王の一人、ハロルドを捕まえたケネスに任せて来たのだ。本来五天王だと分かれば、捜査はするだけ無駄と判断し、野放しにすることもある。もちろんケネスもこの任務を任せられただけなので野放しにすることもできるが、自分がやらなければ被害者は増える一方だ。そんなことできる筈もなく、のしかかるプレッシャーにお腹が痛くなりつつも早速捜査に掛かるとした。
 まずは被害があった場所、彼が現れる時間、それらを地図にまとめ、過去の記録を見て彼の癖を見つけてたあと、次に現れる確率が高いところで張り込みをする。こんなこと、誰もがしてきたが、パーシーを見つけても直ぐに撒かれてしまうのだ。

「次は、パーシーを捕まえて警部にでもなり上がるつもりか?」

 後ろからした声にケネスはゆっくりと振り返る。椅子に手を掛けて睨むランドンがこちらを見ていて、ケネスはびっくりして目を見開いた。そんなケネスのとなりの部下をランドンは肩を叩き退かすと、そこに大きな音を立てて座る。

「ランドン…」
「今でも五天王とコンタクトを取ってるのか、取り引き内容はどうなってるんだ?」
「またその話か。ふざけたこと言うなよ、だからお前の思い違いだっつってんだろ」
「さすがは大手と取り引きしてるな口が堅い」

 ケネスはため息をつきながら頭を抱えると、ランドンは下衆な声でケネスを見た。

「どうやら五天王の他にフレーザー警視長もお前の後援者みたいだしな、なあどうやって彼らを射止めたんだよ。もしかして今まで仕事がなくて暇だった分ご奉仕してたのかな?」
「…いいかげんにしろよ」
「たしかにフレーザー警視長は男前なのに今だに結婚してないし、パートナーもいない。今までそれらしきひとを見なかったのも特殊な性癖のせ…」
「っ、ランドン!」

 ドン、と大きな音を立ててケネスが椅子から立つと、ランドンの胸ぐら掴む。机の物がすべて倒れて、そんなものも気にせずケネスはランドンを机に押し倒した。喉が締まったランドンはケネスの腕を掴み返す。

「離せ!」
「あのな、俺のこと悪くいってもいいが、あの人のことは悪く言うんじゃねえ! なにも、わかってないくせに!」
「はあ? おい、庇うなんてますます怪しい、な…!」

 すると鈍い音がしてケネスは床に吹き飛ばされた。ランドンは上に乗ると一発顔に殴りを入れる。ランドンの方が体も体重も大きい上に重力はランドンの味方なので勝てる筈もなく、ケネスの頬にストレートに入った。だが、さすがに他の警察達も止めに入り、ランドンの反撃もそこで終わる。ランドンは最後まで何か言いたげだったが、他の場所へと連れていかれ、最初に手を出したのはケネスなのでケネスも勿論押さえつけられた。
 ああ、この先が思いやられる…
 ケネスは口の中が血の味をするのを感じながら、上司に従う。さて、今日もついていない一日の始まりだ。




 

 




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