パーシーは新聞を広げた。見出しには『ヒーローケネス、またも!』と言うトニーが喜んで見る様なものだ。大きく貼り出された写真のケネスは頬にガーゼを貼っているも、記者に言われたからか痛そうに顔を歪めながら笑顔を浮かべている。助けられた女性はケネスをべた褒めしていて、新聞もこの国はケネスが居れば安泰だなんて書いてくれていた。パーシーは目を瞑ると新聞を閉じて、後ろに立っている男に話しかける。

「サイラス、これに心当たりは?」
「ないと言わせてくれ」
「まったく、お前ってやつは!」

 この晩、サイラスはトニーが現れたことやエイルマーの金がほぼトニーに持っていかれたことに腹立っていた。サイラスが外に出て行った時にやらかしてくると分かっていたし、止めてもやつ当たられることはわかっている。なので止めることはしないが、念の為とパーシーがケネスの写真を嫌という程見せていた。サイラスもさすがにトニーのお気に入り、ケネスに手を出すのは怖いのか、嫌がりながらもちゃんと見ていたのを覚えている。サイラスは一度頭に血が登ると周りが見えなくなるので、心配していたのだが、まさか本当に手をあげしまうとは。

「俺だってびっくりしたんだよ、暗くてあんま見えなかったし」
「あれほど、見せた、だろ! トニーに息の根止められたいのか!? 今回はケネスが証言していないから良かったけど」

 ケネスほどの警察ならば、サイラスの顔など遠目でも分かるだろう。だから、今回サイラスと特定されなくて本当に良かったとパーシーが安堵すれば、サイラスはパーシーの向かい側の椅子に座った。そしてパーシーが見ていた新聞を広げると、ケネスの笑った写真を撫でる。頬を、何度も、何度も。パーシーはどうかしたのか、とサイラスを見るが、サイラスは何も語らなかった。
 するとそこへ、軽やかな足音が聞こえる。大きな音を立ててドアは開かれた。そこにいるのは、ハロルド。サイラスは舌打ちする。

「てめーかよ」
「うるさい、あんたホントに脳も筋肉だな。トニーがこれに気づいたらあんたこの世にいないぜ?」

 睨みつける鋭い目つきに、サイラスは新聞から手を離した。パーシーは今の動きが気になったがそれよりまたこの二人が言い合いを始めるんじゃないかとハラハラする。よく言い合いする二人だがいつもはエイルマーとパーシーで止めているので、さすがに一人で二人の間に入るのは面倒である。この前もエイルマーが来なければ、二人は殺し合いになっていたのではないだろうか。パーシーの心配を他所に、サイラスは案外優しく返した。

「二人して同じ様なこと言うなよ、うっせーな」
「サイラス、ハリーも心配してるんだ。そんな言い方」
「わーってる! それより、ハロルド、てめーに言いたいことがあったんだけどよ」

 ハロルドはサイラスが自分の皮肉に食いつかなかったことを不思議に思いつつ、サイラスの言葉に耳を傾ける。するとサイラスはハロルドの目を見て、少し笑った。

「お前があいつ助けた意味分かったかも。あんな八方美人で偽善者で…お人好し、初めてだ。しかも反応がおもしれーの」

 楽しそうにサイラスは目に手を当てふつふつと笑いを混み上がらせる。そんなサイラスの姿を見て、ハロルドも口の端を上げた。

「だろ? あいつ、面白いんだよ」
「ああありゃからかいがいがあるな。ただ警察に向いてないとこもある」
「そうなんだよ! だれにでも良くしようとするから、俺たちにも慈悲をくれる。バカだよな。姿も見せて名乗ってあげたのに、いまだに俺の正体はバレてない。言ってないって事さ」
「おい、まじかよ! ほんと、面白すぎる!」

 二人で怪しい笑みを浮かべているのを見て、パーシーはドン引きする。この二人が話合うなんて明日は矢が降るんじゃないか。それより、ハロルド、お前警察相手に名乗ったのか、そしてケネス警部補よ、なぜ君はそれを公表しない。思う事はたくさんあったが、二人に置いてけぼりにされているのが寂しくなったパーシーは、二人の間に入った。

「二人だけしか分からない話題出さないでくれるかな!? 二人とも俺をほっとくなんて酷い!」
「面倒いな」
「うん。だったらあんたもケネス見てくればいいだろ?」
「お、ハロルドいい提案。」

 ハロルドは見て来いよ、とパーシーに笑いかける。だがパーシーはこの笑顔に何回騙されたことか、ハロルドの笑顔は信用ならなかった。だいたいトニーのお気に入りなんか関わりたくもない。パーシーが首を振ると二人は残念そうに肩をすくめるので、挑発に乗らなくて良かったと思った。

「エイルマーも、うっかりケネスに接触してないといいけどねえ」
「エイルマーはバカじゃないし、大丈夫だろ」
「おい、それじゃまるで俺が馬鹿みてーじゃねーか」
「そう言ってんだよ、ボケ」
「ってんめぇ!!」

 するとまた喧嘩が始まり、パーシーは自分には手をつけられないと窓から飛び降りる。すると、自分が出てすぐに窓からテーブルが落ちたのを見て、パーシーは出てきて良かったと思った。



 エイルマーは頭を抱えて、自分への依頼者の写真を見る。まさか、こんなことって。
 エイルマーへの依頼は、教えて欲しい情報と前金、そして自分の写真と自分の個人情報を書き込み、ある廃墟の一軒家のポストに入れておくのだ。その前金にエイルマーが納得し、その上安全と判断できた時、初めてエイルマーの情報屋としての仕事が始まる。みっちり調べた後、直接伝えるため会う場所を指定した紙を依頼者におくるのだ。今回の依頼人、前金、個人情報共に申し分なかったが、相手が悪い。

「ケネス・キャボット、正真正銘のばかだなこいつは」

 依頼人はケネス・キャボットだ。相手が警察ということにも驚いたが、その相手があのケネスというのも驚きである。ケネスの教えて欲しい情報、それはどうやらハロルドの事のようで笑ってしまった。なんでハロルドの名前を知っているのか分からないし、なぜハロルドのことを知りたいのか分からないが、一応自分も五天王と呼ばれる一人。(トニーは除き)仲間の情報を、どれだけの金を積まれても警察に教えるバカはいない。個人情報の所にもご丁寧に職業警察なんて書いてあった。

「何を考えているんだ?」

 裏世界でも一部の人しか知らないエイルマーとの取り引き方法だが、一握りの契約している警察も数人なら知っている。なのでこの取り引き方法を知っているのはそれらの警察から聞いたのかと想定ついた。しかし、これは囮捜査かもしれないと考えるが、彼が正直に自分の名前を書いてくるところ、本当に彼が一個人的にハロルドのことを知りたがっているのが分かったし、自分と契約を組む警察はバカではないので彼を信用しての行動と考え、囮捜査である可能性は低いと判断する。ならば、やはりケネスは本当にエイルマーと取り引きがしたいらしかった。
 だが、自分が金と情報を交換しているこの行為、コロネンゴでは違法。警察が自分と取り引きしたとバレれば、ケネスの立場が危ないだろう。ハロルドの話だと警察の座をおりたくないと命まで掛けた男。そんな男がハロルドを知りたいと言うだけでエイルマーにコンタクトを取るだろうか。他に彼は自分に聞きたいことがあるはずだ。
 彼と会うのには囮捜査じゃなくてもリスクが高すぎるし、この依頼を引き受けるのは決して賢明とは言えない。だが自分の悪いくせが出てしまった。知りたい、彼を、隅々まで。

「いいだろう、会って確かめてやる。トニーのお気に入りってやつを」

 ハロルドのことは調べなくとも知らないことなどない。エイルマーはポケットから出した紙に衝動的に取ったペンを走らせると、黒のハットをかぶった。はたして、彼はどれだけ自分をたのしませてくれるだろうか。







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