放課後な教室で、すぐに帰った桐間に置いていかれた春は困った顔をしながら、龍太の話を聞いた。桐間がいないのは好都合だが、龍太との出来事により、既に春へ当たっていると思うと龍太は改善できないと諦める。
 龍太は今まで企んでいたことと、今日起きたことを正直に春に話した。本当は浩に話せば叱られるので話したくはなかったが、ついてきてしまったので浩にも話すと予想通り叱られる。

「あのな、龍太。お前は逆に二人の仲を引き裂いたんだぞ。はた迷惑ってことだ」
「ひ、…やっぱそうだよなー」

 辛口なコメントを浩に言われて、龍太は落ち込んだ。そして春をチラと盗み見して、小さな声で謝る。春はというと、苦笑いなど浮かべずに、完全な笑顔で龍太を見た。

「いや、俺のために頑張ってくれたんだよな。気にすんな! 俺は嬉しいし。」

 龍太の頭を撫でながら優しく言うと、龍太は感動したのか涙を浮かべる。そして撫でる春の手を取り、両手を自分の頬に擦り付けた。驚きながら気持ち悪いと手を引っ込めようとする春に、龍太が懲りずにやっていると龍太は浩の拳骨を食らう。痛そうに頭を触りながらちぇ、と口を尖らせる龍太に浩が泣く子も黙る目付きで睨んだ。龍太は黙るしかない。躾られた犬のように正座しながら、春の方を見た。

「なんだよ、だってしゅんはこんなに良い奴なのにあんな奴の恋人なんてー」
「いつも言ってくれるけど俺いいやつじゃないし、お前も桐間と付き合うまで協力してくれてたろ?」
「相談に乗っただけで協力はしてないっつーの! くっそ、相手がせめて浩とか俺だったら許せたのに。あの一年小僧とか海飛は許せねーけど」

 龍太は本当に悔しそうに床を叩きながら、後半の言葉は濁しながら言う。浩は遠目で見ながら、龍太もちょっとどころかかなりの我が儘なんじゃないかと思うと、少し頭が痛くなった。
 そこで扉の方から、ノックをする音が聞こえる。3人がそちらを向けば、かばんを背負い苦笑いする海飛が居た。龍太は思い出したかのように、自分のかばんをとり、春をみる。

「ごめん! このクソ野郎にハンバーガーおごって貰う約束しててさ、行っても平気?」
「ああ、大丈夫、じゃーな。」
「おう、またな」

 クソ野郎と呼ばれながらも、龍太に引っ張られる海飛を浩は哀れみの目で追った。春も自分勝手な龍太を笑いつつ、浩の横腹を手を尖らせて刺す。さすがに痛みを感じた浩は、腹を押さえながら春を見ると春はまた刺してこようとした。
 完全に子供のような行動である。春が子供じみているのは今に始まったことではないので、その腕をねじ伏せるだけにした。春がもうしません、と誓ったので浩が離すとよし! と場を変えさせる。

「龍太は海飛に取られちゃったし、久しぶりに一緒に帰るか!」

 最初の言葉は余計だ、咄嗟にツッコミをいれつつ、浩は新鮮な感じを受けて素直に頷いた。学校には生徒はほとんど残っていないらしい。それもそうだ、まだ消えない暑さがあるなかクーラーもついていない学校に残るはずもない。二人は風を求めながら玄関を出た。外は想像より涼しいものである、原因の太陽を憎く思いながら沈むのを二人は見ている。

「浩はさ、龍太を好きなのか?」

 春は目の前に捨てられたガムを避けながら、浩に聞いた。浩は春の質問に言葉を詰まらせる。春が浩を見ると、浩も困ったように春を見ていた。暗くなってきて周りも見辛くなってきているというのに、浩の眉間にシワを寄せた姿がはっきりと見えて春は笑う。

「悩むことかよ」
「いや、違うんだ。龍太の事は好きだ、けど恋愛では…どうだろう」

 どうやら浩は、龍太から恋愛感情を持たれていることを知っているようだった。そして、春が聞いた“好き”がただの友愛でないことも、悟ったようで、春は驚く。
 少し前男の自分を好きだった浩と言えど、恋愛になると考え方が堅い部分がある。龍太が自分を好きと分かれば、少なからずとも距離は置くと思っていた。だからこそ、好かれていると知った上で、日常は変わらず龍太と一緒にいるなど、長年居て浩を深く知る春は意外な結果であった。

「うーん、浩が悩むなら、それは好きなんじゃない?」

 難しい事を考えると脳が爆発してしまうので、単純に考えて、と春は思う。言うなれば今まで女から好意を受けた時は、考えることもなく答えは決まっていた。だが、龍太は違う。悩んでいるのだ、相手が同性の男なのにも関わらず。普通の(、と言っても何が普通なのか、基準なのかは定かではないが、この場では春が考える範囲での)男性は、同性こそ答えは決まっていると思う。
 浩も春の単純で、シンプルな思考を受け、どこか納得してしまった。そして、心はすっきりとする。これが浩にとっての、本当の答えかは分からないが、本人が納得するのであれば、考えが違くとも、新しくとも今の答えなのだ。

「…しゅん、ありがとう」

 自分一人で解決してしまった浩は、春には気持ちの決断は伝えず、ただお礼だけを口にする。春は到底浩が言うお礼の経緯など知るよしもなく、適当に相づちを打った。浩はその自信ある頷きに勘違いしたようで、自分をわかってくれるのは春だけだ、と再確認したようである。

「ところで」
「んぁ?」
「しゅんは桐間のやつと仲直りしないといけないな。このままだと、女子と仲良く踊る桐間を見るはめになるぞ」

 浩は自ら人の恋愛事を聞くような者ではなかった。春が傷つくことをよっぽど気にしているのだろう。春は浩の気持ちを察しながらも、気にしていたことを言われて口ごもる。
 龍太にはああ言ったが、今のまま気まずい空気が続けば桐間は誘いでも何でも意地で飲んでしまうと思った。

「正直、俺すげー妬くし桐間が女の子と絡むの嫌。」

 魂が抜けていくように、春は長く息を吐く。浩は春の言い方がかわいいものだから、頭を撫でてやった。照れ隠しする春から横腹へパンチが来るのをわかっているので、もちろん横腹には盾の手を添えて。春は悔しそうに頬を膨らませる。ハムスターみたいだと浩は笑った。

「このまま関係が悪化する前に桐間に言いに行こう。俺もついて行ってやるから、な?」

 浩が春の頭を、また、撫でる。子供扱いしているような感じがしたが、あまりの安心感に頷いた。浩は春の手を引く。小さい頃は変わらず体は大きかったが、内気な浩の手をよく引いて歩いたものだ。それなのに高校に入ってからは逆の立場になってしまい、春は嬉しいような悔しいような気持ちになる。
 まあ、浩が憧れなやつには昔から変わりはないけどな。
 大きな背中を見て、やはり大事な親友と思った。そんな感動することを考えられているなど知らずに、浩は近くなった駅に飾られた看板の電気が付くのを眺めていた。




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