「へえ、で、お前はそれを了承してきたと…」

 桐間はニコニコしながら腕を組み春を見下ろす。春はその前で正座をしながら、桐間に頭を下げた。

「その通りでございます。」
「はあ!? いい加減にしろよ! またお前は全裸にさせられたいのか!」
「仕方ないだろーが、また脅してきたんだぞ!」
「うっさい、口答えしないでよ!」

 桐間が取り乱したように叫ぶと、春は正座を少し崩しながら苦笑いする。
 春は夏と階段で話した後、かなり混乱していた。別れろと言われたのは予想外すぎて、その後を考えていなかったのである。何を考える事もなく、また桐間と帰れなくなると落ち込んでいると、時は放課後になってしまった。すると、何も知らない桐間は春の教室へと迎えにきたのだが、春は夏のことを考えて無視して教室を出る。そして、後ろから追いかけて話しかける桐間を昇降口まで、聞こえないふりをした。昇降口、そこまで来て春はやっと話したのだ。ほかの人たちからしてみれば、まるで春に桐間がしつこく言い寄っているように見えただろう。桐間はもうその時点でキレる寸前だったが、場所を変えて桐間の部屋で夏と話した事を詳しく話を聞くことにする。そう、そこで桐間は完全に来れたのだ。
 夏は完全に春に傾いている。自分で思うのも癪だが、桐間も春のお人好しで馬鹿な所に流された本人だから夏の気持ちが分かるのだ。誰かと春が話しているだけで苛立つ、ましてや恋人など。桐間もまだ自覚していなかった時、木葉と春が一緒に帰っているだけで腹が立った過去を思い出して、きっと夏もそんな心境だったんだと思う。認めたくないが前の自分と夏は似ていた。素直じゃなく、基本人を見下している。人なんてこんなものと勝手にランク付けて、限度を超えるものはいないと毎日生きてきた。そんな者たちに春は眩しく、ランクの限度を軽々と超えて行く。予想外のことばかりしてきて、心の壁なんて簡単に壊してしまうのだ。乗り越えるなんて可愛いものではない、壊して、毎日の色を変えてしまう。春のそんな所が好きであるが、こうやって人を引きつけてしまうのは恋人としては少し、いや、かなり迷惑だった。

「つーかお前はなんで男にばっか好かれるんだよ、好かれるならせめて女にしろ! そしたら俺に惚れさせて捨てるから」
「ひど、理依哉ひどっ、考え方ひどいだろ! これだからイケメンは!」
「俺だってこんなこと考えたくないねーよ! お前が変な虫ばっか付けてくるから言ってんだよ!」

 桐間もさすがに頭がパンクしてしまったのか、いつもの口調など出てくる暇はない。桐間の最後の責めるような言葉に春は目をそらした。桐間に言われたくない、桐間だっていっぱい惚れさせているくせに、特に優とか。だがこれを言えば桐間の機嫌は悪くなるので言わないでおく。もうケンカは懲り懲りだ。

「だいたい男にばっか好かれてるって、別に…」
「木葉は?」
「あれは懐いてくれてるだけで…」
「キスされたんだろ」
「…えへ」

 誤魔化すように笑う春に、桐間は容赦無く壁へ追いやる。

「前のこと掘り出したくないけど、浩だってお前を好きで俺に威嚇してきた時もあったな、実際告白してたし。」
「理依哉、その話は…」
「ああ、そういえば龍太も春可愛いって言ってたな。木葉はあいつもうお前しか無理なんじゃない、責任取りなよセンパイ」
「理依哉あ!」
「そーそー、本題の夏クンなんてお前相手なら勃つって言ってたんだろ? それはもう告白として取っていいんじゃねーの? 普通男相手に勃たねーしな。もうここまでくるとお前が誘惑しているとしか…」

 そこまで言って桐間が口を閉じた。目の前の春が膝を抱えて、肩を揺らし始めたからである。桐間は驚きながら、春の肩を掴んだ。

「は、はる!?」
「な、んで、そんなこと言うんだよおっ。俺が…っ、男相手に、誘惑なんて、するわけ…うう」

 案の定泣き出してしまったらしい。桐間は言い過ぎたと反省しながら、目もとを押さえた。春があまりにも無防備であんな夏にも優しいので、嫉妬して意地悪してしまったのである。春が誰にでも優しくしてしまう性格なのは分かっていたはずなのに、ここで爆発してしまうとはかなりの子供だ、と桐間は自分の行動が恥ずかしくなった。今までの行動を取り消すように、桐間は春を優しく包み込む。

「うん、だよね。だいたいお前の誘惑じゃ誰も落ちないよね、ごめんね」
「理依哉のばかあ、おれだってえ…俺だってー!!」
「どっちなんだよ…」

 結構凄い力で胸元を殴ってくる春に桐間はツッコミをいれるが、春は動揺しているようでまだ泣き続けた。桐間は誰が泣いていても気にしないが、春になるとめっきり弱くなってしまう。普段謝らないのに、気付いたら謝っていたりするのだ。
 この、なきむし。言ったら泣きが酷くなるであろう文句を言いながら桐間は春の背中をさする。

「おい、おさまったか」
「う、うん」
「ったく、あれぐらいで泣いてたら俺と本気で口喧嘩したら絶対勝てないからね。悔しくないの?」
「ぅう、悔しいんだよ、言い返せないのが! そうやって悔しがってると、涙が出てくるんだよ!」

 悔し涙だったのか…。
 桐間は春の涙を袖で拭きながら思った。すると春はもう上機嫌になったのか、メガネを外して顔を桐間の胸になすり付けて喜んでいる。
 それにしても、と桐間は春の背中を見た。後ろに尻を突き出して、こちらに顔を預けているので背中のラインが妙に色っぽく見える。こんな真面目な話をしている時に何を考えているんだと自己嫌悪しそうになるが、ピッタリくっついてくる春がいけないと責任転嫁して桐間は春の服の中に手を滑らせた。春の体がビクリと跳ねる。この前保健室で御預けを食らったのだ、今日は何が何でもやってやると桐間は意気込みながら春をチラ見した。すると、春は上目遣いで桐間を見ている。そんな顔で夏を見たんじゃないのか、と問いただそうと思うがその前に春が口を開いた。

「今からヤるの?」

 そうだけど、そうだけど! ムード台無し!
 思いながらも口に出せばもっと空気を壊されてしまうので、少し頷いて春の唇に食らいつく。春もここで拒否して来ないと言うことはノリ気ではあった。

「ん、っはあ、ぅ」
「っは、鼻で息しろって」
「簡単に、んぁ、言うなよ! それを言うなら理依哉だって!」
「俺の方が上手い!」

 未だディープキスが下手な二人は、そこで言い合いになりながらも服に手を掛けて脱ぎ始める。春が全部の服を脱ぎ終わった時、春は桐間のことを見て少し睨んだ。桐間が春を見下ろす。

「なに、そんなに見て」
「なんで理依哉は全部脱がないんだ、俺だけ脱いでバカみたいじゃん」
「なんだ、それ…じゃあ脱げばいいの?」
「うん!」

 満面の笑みを浮かべて言う春に桐間はため息をつきながら服を脱いだ。春は桐間の体をまじまじと見ているが、桐間は恥じることなく脱いでいく。いや、恥じる所が無いのだ。
 桐間の細身では服を着ていると想像のつかない筋肉が露わになり、春はびっくりしてシーツを握りしめる。最初した時は緊張のあまりジロジロ見ることは出来なかったが、二回目と言うこともあり気持ちは落ち着いていたので観察できた。桐間の割れた腹筋を見てから、徐々に上に上がり桐間の顔を見る。こんなに顔が良くて、こんなにかっこいい体してたらモテるよな、と思った。

「言われた通り脱いだんだけど。させてくれないの?」
「あ、ああ、ごめん!」

 見惚れていた春は慌てて、四つん這いになり尻を桐間に向ける。そのまま手を触れてくるのかと思いきや、なんの行動も起きなかった。不審に思い顔だけ振り向くと桐間が唖然としたのを見て、春は首を傾げる。

「どうしたの? 解すなら解せよ」
「いや、あのさ」
「なんだよ?」
「なんでも、ない」

 変な理依哉、と呟くと桐間は気まずそうに目をそらしながら何か考えているようだった。そして、春の腰を持つと簡単に向きを変える。前からか、と春は戸惑いも見せずに股を広げた。こうした方が桐間も弄り易いだろうと思ったからである。だが、そこで桐間も限界だったらしい。ため息をつきながら、まるで返品するかのように春の股を閉じた。

「…お前なあ!」
「うわ、今度はなんだよっ!?」
「最初やったときから思ってたんだけどもっと恥じらうとか、出来ないの?
 なんでそんな簡単に尻を向けるの、股開くの?!」
「いや、恥じらってても時間の無駄だろ?」
「お前はなんでこういう時妙に男前なんだよ!?」

 桐間に褒められて鼻の下を伸ばすと褒めてない、と間髪を入れずに桐間が叩いてくるので春は頭をさする。そして、桐間を見た。

「照れるとか二回目だしもう無い、女じゃないんだぞ。AVの見過ぎだよ、桐間くん」
「…そういう発言も他の男ならかんっぜんに萎えてる!」

 大好きな桐間だが、こういう時は何故か乙女なので面倒だと思う。別に春も行為に慣れている訳では無いが男に裸を見られても恥じらいはなかった。そして何より桐間がこうやって誰かと比べるのも正直苛立ちを感じる。どこの女と比べてんだ、コラ。春は桐間を睨むと、鼻をならした。

「じゃあもういい、すんのやめよ」
「は? ここまできて?」
「理依哉が他のやつと比べるからいけないんじゃん、ばーか!」

 春はメガネを掛けながら、桐間の肩を押し退けてベッドから降りる。パンツを拾い上げて足に掛けたとき、春は腕を勢いよく引かれた。足が両方パンツで拘束されているので受け身を取れず、春はベッドへと背中を打つ。文句言おうと桐間を見ると、桐間は春を黙って見ていてそのまま口付けてきた。
 またこのキスかよ、苦しい。
 春は一生懸命答えていると、さっきのと違うものになってくる。苦しいだけじゃない、口内が熱くなってきた。のぼせたように頭がくらくらする。考える暇もなく、感じることしか出来ない。口をはなしたとき、もっと、と思ってしまったのが本音だ。春はトロンとした目で桐間を見ると、桐間は春のおでこにおでこを重ねてくる。

「な、な」
「比べてなんかないけどね」
「え?」
「比べる暇なんかない、目の前のお前で精一杯だよ」

 そこまで言うと体中にキスをし始める桐間。こんなことを言われたのは初めてなので、春も固まってしまう。目の前のお前で精一杯、と言うことは今の桐間の目には春しか映っていないのだ。頭の中も、他の考え事は全て春。そう、思うと段々春は自分が裸でいるのが恥ずかしくなってきた。だが、自分から照れない、と断言したので、隠すことは許されない。
 桐間の指先がお腹まできて、ゆっくりと下に下がって行った。その動きは官能的で、反応してしまう。見ないように顔を背けると、桐間は春の頬を掴み自分の方に向けた。そして艶のある顔で舌なめずりし、春の後部に手を掛ける。
 もう限界だ!!

「やっ、やめろ、バカ!」
「!?」

 春は桐間の顎を下から殴って動きを止めた。逃げて行く春に、桐間は顎をおさえながら睨む。

「おまっ、バカかよ!? 舌噛むかと思ったわ! あほ!」
「あほはお前だろ、お前があんないつもと違うキスしたり、エロい顔するから…」
「は?」

 春の言葉に桐間は首を傾げた。別にキスを変えた覚えはないし、春が無駄口を叩かないように口を封じただけである。体だって最初したような愛撫だった。考えている時、ふと、春を見ると春の顔は真っ赤になっている。
 なるほど、俺の言葉で反応しちゃったってわけ。
 春は気付いていないだろうが、今の春は完全に自分の体に意識していた。だから現にこうやって桐間から逃げてる時も、シーツを体に巻きつけるように持っている。桐間は先程のやり取りを思い出し、ニヤリと笑った。

「あれ? 春、照れてる? さっき照れないって言ったのに可愛いとこあるじゃん」
「はあ!? 照れてなんか…!」
「じゃあシーツから手はなして。春の綺麗な体見れないでしょ」
「きっ、かっ!?」

 桐間はもっとからかってやろうと普段言わない言葉を連呼する。恥ずかしいなんて思わなかった。今、春をからかうことが出来ればなんでもいい。

「早く、見せてよ」

 恥らう春の姿に余裕がなくなって行くのが嫌でもわかった。カッコつけたかったんだけどね、と過去形に思いながら春に手を伸ばす。春はくそ、と可愛らしくない言葉を投げかけて来たが桐間はムカつくなどよりは、反対の感情を抱いた。
 夏や木葉や浩じゃ、春のこんな息遣いの言葉は聞けないしね。俺だけの


 続きを考える前にシーツが落とされる。それを合図に、目の前の獲物にかぶり付いた。一文字も考えられないほど桐間は春に夢中である。そこで桐間は笑った。
 余裕など、あるときなんてなかったのかもしれない、と。



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