『会いたい、今すぐ』

 春から掛かってきた電話に桐間が出たときその言葉を言われて驚きながらも、ならば俺の家にくればいい、と桐間は返事をした。鼻声の春は、その言葉に笑うと、じゃあ行くね、と少しかわいらしい声で言い返してくる。それが30分前。
 そして現在、春は桐間の部屋にいた。なにも話さずにベッドの下で縮まる春に、桐間はなにも言えずに雑誌を広げている。なんて切り出そうか、桐間は迷った。お前犯されたの、とか、保健室のあと夏とどこにいっていたの、とか質問攻めはいくらでも出来る。だが言いたいのはそんなことではなかった。桐間は自分をもどかしく感じ、雑誌を放り投げる。

「ねぇなんでそんな傷ついた顔してるの」

 桐間は春の顔をみれず、春の後頭部をみながら言った。インターホンがなって扉を開けたとき、桐間は春の顔を見て驚く。最後に見た春とは違い、堂々とした態度はなくなっていた。それこそヤられてしまったのではないか、と桐間が考えたほどである。だがあることないこと分からないまま春を責めるより、本人に真実を聞くのが一番だ。春は桐間の方を見ずに、自分の足を見ながら言う。

「夏くん、理依哉のこと殴りたいから俺らを脅したんだって」

 桐間は考える時間も得ずすぐにふぅん、と返した。その瞬間、春が泣きじゃくった顔で振り替える。桐間はぎょっとしながら春を見たが、春は興奮したように続けざまに話した。

「ふぅん、じゃない、わかってんのかよ? 夏くんは自分から殴ったら退学だから理依哉からやるように仕向けたんだ、理依哉はまんまとその罠に引っ掛かったの。それって凄く危ないんだよ、今回は三日間の謹慎処分だけだけど、もしかしたら停学、いや退学になってたかもしれないんだよ?」
「退学になったって、別に。ていうか俺謹慎だったんだ、今知った」
「なんでそんな呑気なこと…、理依哉って本当に子供」
「はぁ? じゃあお前は、恋人犯しましたって言われてムカつかないの? カッとこないの?」
「そりゃ、カッと来るけど…あ、それ嘘だからな。俺なんかが犯されるわけないじゃん」

 春はベラベラ喋りだしたので桐間も負けじと言い返すと、春の涙腺は壊れたように泣きっぱなしである。そうして真実が明らかになったがあまりに素っ気ない暴露に、桐間は思わず冷たい言い方になる。

「犯されるわけないじゃんって、わかんないでしょ! つーか、お前だって人のこと言えないじゃん。あー、じゃあもうこの話は無し。考えるのつかれたよ」

 春を傷つけまいとは思ったが、心配した分春の自分の身への考えの軽さには腹が立った。桐間がそう投げやりに言うと、春はやっと自分が桐間を傷付けたのだと気付き、ごめんと心底申し訳なさそうに言う。桐間はその謝罪には答える気にはならなかったが、春の表情を見て睨んだ。

「なんか言いたげだな」

 桐間は生意気な、と春の背中を蹴る。春は前のめりになって床に手をつくと、ムカついたのかプルプルと震え出した。桐間もムキになっていたので何を言われても言い返してやろうと、春の言葉を待っていると春は唇を食い縛りながらこちらを見る。

「うん、俺も疲れたし話は止めよう、だけど一言言わせてもらう。とりあえず理依哉は俺のことなんかで怒っちゃだめだからな! もう、心配させるのは、止めてくれよ。殴り合いの話聞いたとき、本当に心臓止まるかと思ったんだからな」

 そうして最後にはさんざん垂れ流しだった涙を拭くと、春は膝を抱え込んで丸まった。春は足でつついても、もう桐間の方へは振り向かない。それはこっちの台詞だよ、桐間は言いたいことを飲み込みベッドに倒れこんだ。
 春の言葉には、いちいち胸が締め付けられるな。
 春には悪いが、桐間は春が自分を心配してくれたのが嬉しくて場違いなことを考える。心臓止まるかも、なんて例えの言葉だが、春は本気でいってそうで、その感情は素直だからこそ出てくる言葉だ。お互いがお互いを思いすぎて今の言い合いがあったのだと思うと、緊迫した状況にいた桐間も笑えてくる。桐間の笑いのツボはおかしいのだ。その笑い声を聞いて、春は涙と鼻水でぐじゃぐじゃになった顔のまま桐間を見る。

「こんな時になに笑ってんだ!」
「はは、いや、ふふ。お前俺のこと好きだなって思って」
「な、なんだよ。理依哉だって俺のこと大好きじゃん」
「うん、だからおかしくって。俺前までは自分がこんなバカップルになるとは思わなかったよ」

 春は自分が言った言葉は否定されると思ったが、桐間は春を大好きだと認めてまだ笑っていた。笑えば切れた口端や、酷く腫れた頬が痛むと言うのに笑いが止まらない。
 幸せだな、俺。
 桐間は笑いながら、ただそう思った。そんな笑う桐間を見て、春が頬を膨らませながらじとりと桐間をにらむ。

「…今日は怖いくらい素直」
「ふふ、たまにはね。ほら、泣き虫くん、隣おいで」

 泣き虫じゃない、と言い返そうとしたが桐間があまりにも優しくそう呟くので、招かれた桐間の隣にダイブした。腕をたてて横を向きながら寝る桐間に張り付くと、春は桐間の首もとに頭を擦り付ける。くすぐったい、と笑う桐間に、春はどうだ、とぐりぐりと押し付けた。
 すると、桐間はぴたりと笑いを止めて、真面目な顔で春の顔を見る。春は桐間の真剣な眼差しが少し苦手だ。春の眼鏡を外すと、桐間は春に口付ける。それは甘い、口づけだった。

「ん、好き、好きだよ、理依哉。お前以外、やだからな」
「いきなりなんだよ。」
「夏くんに押し倒されて思った。お前以外やだって。。もう一回キスしてよ」
「っ、お前なあ、ベッドの上でそういうこと言うな、バカ」

 まるで誘うかのような言葉に、桐間は顔を真っ赤にしながら春の要望答える。春も繋がっていたいと必死で、足を絡ませるとキスしている口を開き、舌を入れた。桐間も抑えが効かなくなってきて、横を向いていたが春を押し倒すような形になる。そして、何回もキスを繰り返し、口を離したとき、春が異変に気づいた。

「あ」
「はぁ、なに」
「…あの、理依哉さん…当たってます」

 春は自分で言っておきながら恥ずかしくなり、顔を隠して言う。すると桐間も自分の異変に気付いたようで、すぐに飛び上がった。そうしてしどろもどろしながら、桐間はため息をつく。

「ごめん、春、今日は帰って」
「ええ、なんで!? 別にいいじゃんか、俺は反応してくれたこと嬉しいよ?」
「お前、嬉しいよってなぁ…」

 春が言い返した言葉に桐間はこれ以上増さないくらいに赤く染め上がると、ベッドの端に寄りかかり片手で頭を抱えた。そうして、おずおずと口を開く。

「もう限界なの。このまま、お前に、手出しそうなんだよ。もう一人でどうにかする。頼むから、早く出ていってくれ」

 春は熱い吐息でよほど切羽詰まっているのだろうと分かった。こんな空気は、今まで二人の間に流れたことがなく、対応に困る。前も桐間からされそうにはなったが、あれは桐間が一方的にしかも気も乗っていない状態で服に手を掛けてきたのでなにも感じなかった。だが、今回は違う。もちろん桐間はその気だが、実は春も熱で体が火照っていた。好きな人とあれほど情熱的に絡んで、反応しないわけがない。
 桐間は出ていけというくらいなのだから、本気なのだろう。その目はうつろで、あえて春を捉えないようにしていた。だからこそ春は桐間と向き合いたいと思う。よつんばになって、手と膝で歩きながら桐間に近づいた。桐間は遠ざけようとするが背中は壁、逃げ場はない。そうして距離が縮まったとき、桐間は春から目をそらした。

「ほんっと、分かんない奴! それ以上近寄ったら、お前に手を出さないって保証しないからな!」

 逃げとも見える桐間の言葉に、春は笑いそうになる。いつも余裕を見せている桐間が、こう必死なのを見ると可愛く見えるからだ。だが桐間の言葉を聞いても、春が引き下がるはずない。そのまま近寄って、春から唇を重ねた。
 すると、離そうとした春に桐間はそのまま舌を絡ませる。苦しそうにする春を他所に春の手首を掴むと、形勢逆転、桐間は春を押し倒してキスを続けた。服に手を掛けて、焦るように脱がず。春も答えるように桐間の服を脱がした。

「保証しないっていったよ」

 何故か泣きそうな桐間に、春は嬉しくて泣きそうになる。やっと繋がれるんだ、と胸がいっぱいになった。

「うん、理依哉大好き」

 春の言葉に、桐間は答えになってない、と笑ったが正直二人は言葉など気にしていない。ただ目の前の相手に集中していた。肌が触れあう度幸せを感じ、お互いの熱を感じる度充実する。
 そうして二人は、やっとひとつになれたのだった。



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