恋は突然だと、桐間は考える。いや、桐間の場合全てが突然だった。尾形春という嵐がやって来てから、功士との信頼が出来、数は少ないが友達も出来た。そして、

「起きろー! 早く行かないと遅れんぞ」

 恋人という一生縁の無かったものにも出会えた。それもこれも、春のおかげと言えるだろう。
 桐間は自分の上に乗っかり、目覚まし時計をとめる恋人を無視してまた枕へと顔を沈める。その姿に春はぷちん、とどこかが切れた。

「理依哉が俺ん家迎えに来ないから、迎えにきたのに」
「ん」
「このままだったら遅刻しちゃうだろー!」
「…ん」
「って、また夢の世界入ってんなばかやろー!」

 春が桐間をベッドから引きずり出し、寝ぼけた桐間に服を着せる。その横で忙しそうに、功士が会社へ向かい、それを二人で見送った。いつもの日常、これが二人にとっての幸せである。

 二人はこのままでも良かった。友達のようだが、なんでも許せる関係。一番理想的だと思える。
 だが、周りは違うらしい。

「おい、しゅん、お前らあれからキスはしたのか」

 無事学校につき、四時間目まで授業を終え、もう時間はお昼休みになっている。そんなのどかなお昼の時間、桐間が飲み物を買いに行っている間、龍太はそそくさと聞いた。春は食べていたパンを落としそうになるが、急いで飲み込む。だが、上手く飲み込めず、結果咳き込むこととなり浩が背中をさすりながら、お茶を飲ます羽目となった。
 春は咳き込んだせいで涙目になった目を押さえながら、龍太を睨み付ける。

「いきなりなんだよ!」
「いやー? 進展あるのかな、って気になっただけだけどぉ?」
「…ないけど、それがなんだよ」
「やっぱりな」

 龍太はあきれたように、春を見返すと、春はムカついたのか浩のお茶を一気飲みした。浩に当たっても仕方ないのだが、龍太にはなにをしても帰ってくる気がしたからである。
 龍太の言う、あれから、とは結ばれた日からであった。たしかに、龍太のいうとおり付き合ってから2週間、進展どころか、キスも手を繋いですらいない。強いていえば、名前で呼びあっているだけが春だけの特権でそれ以外は、振り出しに戻ったとも言えた。それでも春は良かったのだ。二人でいれれば。
 だが、龍太はニヤニヤしながら教室の入り口を指していた。

「ほら、見てみろよ。またダーリンが囲まれてるぞ?」
「!!!」

 そこには桐間と桐間を囲む可愛らしい女の子三人が居る。桐間は嫌そうな顔をしているが、触られても前のように拒否反応は起こさなくなったので、振り払うことはないようだ。
 桐間は顔は普通よりも上であるし、背もそこそこある。赤茶な髪も開いたピアスも不良のような振る舞いだ。春と関わったあとの桐間は、真面目に学校は来ているし、人とも話せるようになり、浩や龍太以外にも冗談も言い合える友達だってあった。
 いきなり柔らかくなった桐間に、クラスメイト以外も注目を寄せている。男子もそうだが、やはり女子が桐間に集まってきた。そんな姿を龍太は羨ましそうに見るが、春からしてみれば絶望的である。

「あんなに可愛い女の子たちに責められたら、桐間もくらっと来ちゃうかもなー」

 意地悪そうに口端を上げる龍太に、春は悔しげに歯を食い縛った。トイレ行ってくるという、嘘か本当か分からない言葉を言いながら春は席をたつ。今にも死にそうな後ろ姿を見て、浩はためいきをつきながら龍太を見た。

「いじめて楽しいか」
「反応が楽しくってよー! あんなにしゅん溺愛な桐間が浮気するはずねーのに」
「性格悪いぞ」

 浩が龍太の頭を叩きながら言うと、龍太はけらけら笑いながら先ほど飲み干した空のペットボトルを手に取る。龍太は春とは度の過ぎた馬鹿な遊びをいつもしているし、春をからかうのが好きだ。自分が口出ししても変わらない、またいつものふざけだろうと、浩は諦めて飲み干されたお茶を買ってこようと席を立つ。

「しゅんってかわいいよなー」

 そんな浩にも聞こえないくらいの声で、龍太は呟いたのは、誰も知らない。



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