海飛の片思い
いまだけ、目の前のものが見えなくなればいいのに。
海飛は思いながら教科書を顔の上に乗せた。誰も気付かない授業中泣きそうになる。
海飛はいつも彼に目が行く。だからこそ笑っている彼、怒っている彼、喜んでいる彼、様々な彼が見れるのでやめられないものであった。だが彼を目で追っていて、良いこともあればもちろん悪いこともある。海飛はそれを分かっていながら、毎日彼を見るわけだが。
さっきから…戸河井のことずっと見てる。
言いたいことでもあるのか、それとも彼も自分と同じように好きな人の喜怒哀楽が見たいのか。どちらにしろ彼の眼に映るのは、浩だけであり、海飛ではなかった。十分承知して彼を眺めていたはずなのに、海飛はやはり、傷付いてしまうものだった。
彼が浩を好きであることと、はたまた浩も彼を好きではあるのだろうということは、両者の接し方すぐに分かった。そのため邪魔をするつもりはないし、協力を頼まれれば喜んでするだろう。だが、やはり、目の前でこうも見せつけられては海飛もいい人を演じるわけにはいかなかった。
授業が終わるチャイムがなったら、真っ先に戸河井の所にいってまた俺には見せない顔すんのかなー
どうも切ない気分になりそうな海飛は、教科書が滲むのが分かる。大々的に、大声で泣けたらどれだけらくだったものか。だが、男が授業中なにを泣いているのかと思われてはならない。海飛はワイシャツの袖で涙をふきとった。
するとちょうどいいタイミングで、チャイムが鳴る。がたん、と彼の椅子が大きくなった。
ああ、予想通りだ。