「あーもう、雄ちゃんどこにいるんだよ!」

 息を切らして人ごみを潜るが、十山のお目当ての世間瀬は一向に見つからない。世間瀬は背が高いのでいれば簡単に見つかるはずだが、なかなか見つからないのでここには居ないらしい。
 十山は世間瀬と一緒に文化祭を回る約束をしていたが、一時間だけクラスの出し物の係りで一人にさせてしまっていた。彼は携帯を持たないので11時半に昇降口で約束していたのだが、過ぎても来る気配はない。いつも約束時間よりも10分前に来るのを知っているので、約束時間になった時からおかしいと思っていたが。
 十山は世間瀬の友達を頭に浮かべるが、世間瀬は自分以外に友達はいないはずなのでどこかに夢中になっていることはないと思われるが。

「釜播、か?」

 歯ぎしりをしながら、一人の名前を口に出す。最近世間瀬とやたら絡む男だ。十山とも部活が一緒だが、まさか自分との約束を破って釜播と回っているとでも言うのか。それだったとしたら、嫉妬で死んでしまうが、

「それは、ないな。」

 ふー、と一息ついて笑う。この前自分と釜播を比べた時、世間瀬は自分を選んだ。だから、あり得ない。あり得ないはずだが、少し焦ってしまう。
 その時、坂田が通った。彼は世間瀬をひどく気に入っている、その事は許し難い事実だが彼なら分かるかもしれない。得意の笑顔を貼り付けて話し掛けてると、案の定坂田は知っていた。どうやら坂田が頼んだせいで遅くなったらしい。だが話に聞くところによると、頼んだのは30分前。時間がかかっても15分程度で終わる仕事のはずだ。いまさら校舎で迷子になるわけもないので、十山は不思議に思いそこに向かう事にする。場所は四階の階段登ってすぐの空き教室らしいので、十山は早速行く事にした。嫌な予感がしつつも先生から見つからないように行こうとすると、二階の階段に同じクラスの五人の男たちが座っている。十山の目にも留まらず階段を登ろうとしたとき、一人が言った言葉が耳に入る。

「釜播のやつ、今頃熱中症で倒れてんじゃねーの?」

 十山の足はピタリと止まる。振り向けば、彼らは笑いながら手を叩いた。

「あそこの教室暗いけど、蒸し蒸ししてんもんなー。閉じ込めるとか、ナイスアイディア」
「ああいうやつは一回懲らしめなきゃいけないんだよ、はは」
「どこに?」
「え?」

 楽しんでいる輪の後ろに、十山が五人を見下ろす。五人は声を聞いて十山を見るが、十山の冷ややかな目に黙った。普段の十山の笑顔からでは想像つかない顔に、五人は言葉を失う。

「おいおい、だんまりかよ。俺はどこにって、聞いてんだけど?」
「よ、四階の、空き教室…」
「空き教室は二つあるけど? どっちか言わなきゃわかんねーよな」
「階段、直ぐの!!」

 十山に一番近かった男が手を踏まれてひぐ、と情けなく声をあげた。十山は聞いてマスターキーを取るために、階段を降りようとする。だが、一度止まり五人を一人ずつ見て鼻で笑った。

「君たちさ、覚えとくね」

 一言言って今度の近くの男の肩を叩くと、十山は職員室へと走る。
 最悪だ、こんな時に! 釜播と二人きりだなんて!
 間に合えと願いながら鍵を借りて、同じ道を走り抜けた。五人組はもう消えていて、行く途中に一発蹴ってやろうと思っていたので残念に思いながら階段を登る。やっと四階について教室に近付いた瞬間、静かな廊下に声が響いた。

「世間瀬は、キレイだよ。」

 目の前が真っ白になって、鍵をポケットから出そうとした手が止まる。え、と世間瀬が息をするような返事をした時、ドアを蹴り飛ばしていた。そこで気付いた釜播が立ち上がり、ドアの小窓に顔を出す。
 ふ、と苛立ちが先立つが後ろに世間瀬の顔が出てきて安心した。怒りなんてなくなって焦りから鍵を探す手に冷や汗をかきながら鍵穴を開ける。開けた時、もあっとした蒸気に額に汗がはりつくが、暑苦しいことも気にせず十山は世間瀬に抱きついた。じっとりと湿った汗の匂いに、何故か十山は安心する。
 俺って相当、雄ちゃんのこと好きだなあ。
 思いながら、両頬に手を這わせた。汗でべとべとな世間瀬すら愛しく思える。謝れば世間瀬は首を横に振るので安心しながらも、後ろから感じる視線に振り向き目があったとき、ほそく笑った。釜播が背中を向けたことに、十山は優越感に浸る。これから自分は世間瀬を独り占め出来るのだ。
 だが、世間瀬の表情に目をふさぎたくなる。

「…行こっか、雄ちゃん」

 やっぱりあいつら、もっとなんかしとけばよかった。






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