「理依哉、手冷たいな。」

 11月になり、もう寒くなってきたから、という理由で中庭で食べていた昼食は教室で食べることにした。2つの机に4人で椅子に座って弁当を食べながら、隣に座っていた桐間と手が当たったのか春がいきなり呟く。桐間は箸を置いて、手をグー、パーと動かしながら興味なさそうに言った。

「あぁ冷え性なんだよね」
「へぇー。俺あったかいよ! 暖めてあげよっか」
「いいよ、気持ち悪い」
「ちょ、ひどっ!」

 春はいいながら、桐間の弁当から卵を取り上げる。桐間は春の反応に笑いながら、口についているご飯粒を取った。
 そんな、仲の良い恋人同士を見て龍太は顔を歪めている。バカップルを見るのは、彼は苦手らしい。

「なんだよな、ふたりしてラブラブしやがって。俺らもラブラブすんべ、ほら浩。」
「遠慮する」

 浩の言葉にショックを受けながら弁当をつつく龍太を見ながら、浩は横目で彼らをみる。
 ふと、自分と春が中学3年生の頃を思い出した。あまり思い出したくないが、一度思い出すと溢れ出すように目の裏に浮かぶ。あれは、もう好きだと、開き直っていたときだった気がした。

‐‐‐‐‐


「しゅん、起きろ」
「んぅー無理ぃ、寒いぃ」
「おい」

 枕に抱き付きながら春は首を振るが、浩は春の体を起こすとYシャツと学ランとズボンを出してチャッチャと慣れた手つきで着替えさせる。まだ起きてない春の首根っこを掴むと、洗面所まで向かい春に顔を洗うように言ってその間に歯ブラシに歯みがき粉をつけた。春が歯みがきしている間に台所に行くと、春の母、結羽と一緒に朝御飯の用意をする。そこで寝ぼけた春が席についた。

「ほら、起きなさいよ」
「むーぅ」
「まったく。浩、毎回ごめんね。」
「大丈夫です」

 浩は答えながら春の口に料理やご飯を運んでいく。そうするとやっと春は起きてきて、ご飯を食べ始めた。しばらくすると出る時間になるので軽く歯ブラシをし、結羽からお出迎えをされながら学校に向かうのである。毎朝、毎朝、繰り返される当たり前な日常。
 浩は満たされていた。好きな人の身の回りの世話ができるのは嬉しかったし、春は浩がいないとなにもできないので必要とされているようでそれを糧にして毎日頑張っている。春はそんな浩の気持ちもしらないで、のんきにあくびをした。

「あ、なぁ。高校どこなんだっけ」
「まだ、決めてない」
「そうなの、浩頭いいからどこでも入れるんじゃね。俺は選べないからな」

 口を尖らせていいながら肩に掛けてあるカバンをかけ直して浩を見る。浩は首をならしながら、大股で歩いた。
 まだ、決めてないとは言ったが本当は決まっている。いや、正確に言えば春と一緒の高校に入ると決めていた。だが春のことだ、一緒の高校に行きたいと浩が言えばお前ならもっと上に行けると無駄に言ってくるだろう。それらを踏まえて寸前まで言わないことにした。
 11月までになるとさすがに寒い。腕の丈をできるだけ伸ばし鼻を隠す春を、浩はただ見ているだけだった。
 もしここで恋人ならば手を繋いで、鼻が赤いなどとふざけて言い合えたのだろう。だが、浩と春は男同士ましてや、親友だった。

 お前とずっと一緒にいたい、と言えばしゅんは笑いそうだな。

 浩は本音を胸の中にしまって、自嘲しながら春の歩幅に合わせる。彼は浩よりも10cmほど背が小さい、足だって背のわりに縮んでいるし、浩と比べれば手だって指だってかなわなかった。浩が人より成長しただけであるし、女の子と比べれば一目瞭然であるが、女の子とではなく、浩は春と自分の差が嬉しくて仕方ない。春と自分の体格差があればあるほど彼がいとおしく感じた。か弱く細い腕だって、抱き締めてしまいたい。

「さみぃなー、12月とかどうなるのかな」
「さぁな」
「あ、マフラー買いに行こうぜ! あと、耳当てー」
「はいはい」

 そうやって浩の耳を引っ張りながらいたずらっ子のように笑うのだから、浩はにやけてしまいそうになるのを耐えるしかなかった。するり、と耳から下りていく手が暖かいのを感じて、浩は笑う。

「手、いつも暖かいな」
「そっか?」
「ああ俺は冷たいから丁度い…」

 言いかけて自分の言った言葉の重大さに気付いた。焦ったように口許を隠しながら春から目をそらすと、春はぽかんとした顔をして浩を見ている。しっかり聞こえていただろうし、途中で止めてしまったのが春にとっては不自然だったのだろう、まだ飽きずに浩を見ていた。
 白い息はまだ出ない。寒いといっても手袋やマフラーの装飾品はまだいらない時期だが、浩の手は冷えきっていた。もともと冷え性ということもあるが、さきほどから風にさらしているせいでもある。ポケットにいれようかと思った時、指先に暖かいものが触れた。驚いて見れば、春が浩の手を両手で包んでいる。

「つめたっ! やばいよ、浩。死んじゃうんじゃね?」
「え、いや」
「うん、確かに丁度いいな」

 言いかけた言葉はやっぱり聞こえていたようで、得意げに笑う春に浩は恥ずかしくなった。春の熱を貰いだんだんと暖かくなる手とは違い、顔は一気に熱くなる。頬に熱が集中するのを感じて、どうしようもない感情に戸惑った。春はそんな浩に気付かないで、浩の頬に手を当てる。

「浩変なの、ほっぺは熱い」
「…みたいだな」
「浩のせいで手冷めた」
「勝手にしたんだろう」
「でも手暖かくなっただろ。俺のおかげ!」

 笑いながらいうのが、いとおしくて、いとおしくて。
 なぜか目にまで熱が集まるのが感じて、下を向いた。

「そうだな、ありがとう」

 だが想いは増すだけで、この恋は叶わない。浩が春を好きだと気づいたときには、もう手遅れだったのだ。

‐‐‐‐

 やはり思い出しても、良いことはないと浩は思う。やはりあの時思った通り、初恋は叶わなかった。叶うはずがないのだ。まぁ、想い人は男とくっついてしまい、アピールしとけば良かったなどと思うときもあるが。

「な、今日どっか行こ」
「無理、バイト」
「な、理依哉のばーか、もういいし! じゃ、浩と龍太今日遊ぼうぜ」
「俺らは当て馬か!」

 話を振られて龍太がツッコミを入れて、春が笑う。それをみて桐間が心から楽しんでいるように、口許を緩めるのだ。

「なぁ、浩、いいだろお。今日遊ぼうよ!」

 春は普通に浩を誘ってくる。告白したのはもう春の中には一ミリも残っていないのだろう、ありがたいようでどこか寂しかった。親友の位置は嬉しくて、昔の自分を思うと他人事のように可哀想に思う。

 だが、これが一番、幸せな俺の居場所。

「ああ、」

 春と桐間を見ながら心の底から、彼らの仲がずっと続いてくれればいいなと思った。言ってしまえば、春は照れ隠しに殴ってくるので言わないでおく。
 いつだって本音は言わない、いや、言えないのだ。





▼こう書いてると浩がかわいそうになってきますね。けどメインりーはるだよ、浩残念だね!友達のいちゃいちゃが好きです。かけて満足です、





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