癖のある先生照里とそんな彼に惚れてるグレた柳田

「照里、数学おしえろ、すうが…く。」

 ずしゃ、踏んだのはばらばらと落ちているプリント。どうやら印刷途中のようで、変なところでとぎれたものばかりだ。柳田(ヤナギダ)は顔をしかめると、構わずプリントを踏んで奥まで進んだ。

「こらこら、踏むんだったらゴミ箱に入れなさい」

 銀色の棚が並んだ奥にはデスクと椅子がぽつんとおいてある。そこに座ってパソコンに向き合う男が柳田に声を掛けた。その言葉で柳田は言う通りに、プリントを拾いはじめる。

「きったね。」
「しかたないだろ、なかなかテストが出来上がらなくてな」

 そう言うと照里(テルサト)は自分の頭を抱えながら、パソコンに食いついた。柳田はプリントを興味無さそうに眺めながら、丸めてゴミ箱へと放り投げていく。
 ここは数学準備室。柳田はてるてるの隠れ家、なんて呼んでいる。この場所は校内でも誰も近寄らないよう奥の奥に存在する。隠れ家と言う言葉が合うほど、気づきそうもない部屋であった。
 プリントを片付けた柳田は小汚ないソファーに当たり前のように寝転がると、自分の鞄から出したファイルを広げて、照里を呼ぶ。照里はパソコンに目をはなさないまま、返事をした。

「数学教えろってば」
「今日までにこれ仕上げなきゃいけないの、静かにしてなさい」
「じゃ、テスト内容見てやる」
「わー、なにしてんの。」

 パソコンをのぞきこむ柳田を無気力に止める。本当に困っているのかと聞きたくなるほど、その顔は無表情である。くるりと巻かれた天然パーマ、キャラメルのような髪色、日に日に変わるカラフルな眼鏡。それ見て柳田は、ゆっくりと笑った。

「照里ってさ、先生じゃないみたいだから、好きだな。」

 照里は柳田の言葉に一度動きを止め眼鏡を上げるが、特に反応せずにキーボードに打ち込む。柳田は照里がこういう人だと分かっていたので、静かになりながらソファーに体を沈めた。
 上には暗くなったり明るくなったりする電球。換え時なのか、と思うが柳田には関係の無いことだった。寝返りをすると、沈みそうな夕日が差し込んでいる。そんな緩い陽に、眠気におそわれた。すると、パソコンと戦っていた照里はいきなり立つと、ソファーに近寄ってくる。そして無表情に柳田のつんつんとした頭を撫でた。柳田は状況が読めず、起き上がろうとすると照里は毛布を掛けて、そこにしゃがみこむ。
 柳田もさすがに驚いてしまった。目の前に座れているため、息の冷たさをかんじるほど顔も近い。

「てるさとせんせーい! いますか?」

 なんだ、と柳田が口を開こうとすると、ドアの向こう側から可愛らしい女子生徒の声がした。驚いたようにドアを見る照里の横顔を見て、柳田は自分の顔があつくなるのが分かる。見られてはだめだ、と毛布を被った。照里はそれを見て不思議そうにつつくが、無視をしていると、女子生徒の声が大きくなり、ノックも増える。照里はため息をつきながら、やれやれ、と立った。
 照里がいなくなって、柳田はやっと毛布から顔を出す。セットした黒い立てた髪は照里の手が髪を荒らしたと思い出すと、恥ずかしくなってしまう。

「ねー、数学教えてよ!」
「そうそう。あたしらやばいんだよね」

 声が聞こえる。柳田はどうやら先程の女子生徒は、自分と同じ事を考えていたのだと分かった。きっと照里はあの子達をここに通すと思うし、女は苦手だ、と柳田は立とうとすると照里の声が聞こえる。

「だーめ、今テスト期間中だから生徒はこの部屋には入れないんだぞー」

 苦笑いしているであろう照里に、それを聞いて残念そうにする女子生徒。一見普通のことだが、柳田は片付けようとしたプリントを落としそうになる。
 じゃあ、俺は、なんでここに入れてもらえてるんだろ。
 そう考えると、どうにもならない気分になる。特別、という言い方はおかしいか。そうだとしても、柳田は嬉しくてたまらないのである。その理由は、何故だかは分からないが、頬がまた熱くなった。

「あれ、寝てて良かったのに」

 いつの間にか帰ってきていた照里は、なにごともなかったかのように椅子に座った。次はキーボードを定期的に打つ音ではなく、マウスを押すだけのひとつの短音。コピー機が反応したのを見て、照里は背を伸ばすと、また近寄って柳田の持っているファイルを広げる。

「終わったよ。で、教えてほしいとこってどこ。」

 下を向きながら聞く照里。まだ柳田は固まったままだが、思わず口を開いた。いった言葉がきこえなかったらしく、照里はん? と聞き直すと、柳田は細いこえで言った。

「俺は、なんでここに居ていいんだよ」

 柳田は目をそらしながら照里に聞く。照里は目をまんまるにしたが、そのあと曖昧に笑うと、ファイルを開けてプリントを取り出しながら、足を組んだ。
 んー、と声をあげながら、柳田を覗き込む。目が合って逃げ出せないと、気づいた頃には遅かった。

「柳田は特別だから?」

 今日は黒と緑の眼鏡、それをはずしながら、唇と唇が合いそうになるくらい近くに寄られる。そして、面白そうに目を細くした。それに柳田が目をつむりそうになると、照里はちいさく笑う。

「うーそ。こんな暗い所で女子生徒と居たらなんか言われそうだろ。でも俺と柳田には出来ないから、柳田は良いんだよ。」

 たまに見せるその子供のような目が、いつもは柳田の胸を喜ばすのに、今は痛めるしかなかった。
 照里は崩れた柳田の髪を立てようと、髪をあげようとすると、柳田の異変に気付く。真っ赤な顔を見て、あれ、と首を傾げる。そしてまた近寄ろうとしたが、次は柳田の方が早く、照里の元からファイルを取り戻し鞄に入れると、素早く立ち上がる。

「もういい、数学なんて捨てた」
「え、なんでだよ。教えてやるって」
「うるさい、しね、くそ眼鏡」

 眼鏡は俺のチャームポイント! なんて後ろからの声を聞きながら、柳田は廊下に出る。下を向いて、ただひたすら、歩いていった。
 さっきはかろうじで見えていた夕日は沈みきって、隙間から寒い風が入り込んでくるというのに、柳田の熱は下がらないまま。相手は男と何度も言い聞かせているのに、柳田の顔はたこのように赤かった。大股で歩く大きな音が、廊下に鳴り響く。

「好きに、なっちゃ、だめだよな」

 大きな体とは正反対に弱く、泣きそうな声で呟いた。ああ、またじんわりと浮かんでくる涙を必死に拭う目の裏にも、熱が集まるのだ。







おそれ多くも【愛好家】様に参加させていただきました! 大好きな教師×生徒、攻め←受けな要素を入れさせて頂いたのですが、お題にそれてないか心配です。
この度は本当にありがとうございました!

      時田拝






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