好きだ、と言われて、優人は息をが止まった。抱きつかれた時点で優人の心臓は止まりそうだったのに、好きだなんて言われて正常でいられるはずもない。この『好き』の意味は優人でもわかった。熱っぽい声の色に嫌でも気付かされる。
 男から言われてるというのに、嫌じゃない。逆に嬉しかった。自分を好きと言ってくれたことに溢れるくらいの嬉しさがこみ上げる。
 さっき遥歩が保泉と由樹を見て、由樹も満更ではないと聞いて胸が苦しくなった。追いかけた時も腕を組む二人を見て、腸が煮え繰りかえり、保泉が怪我を負わせても良いから二人を引き剥がそうとしている自分もいて。由樹を捕まえた時、ホッとして、どうしようもなく嬉しくなった。

「ごめん、気持ち悪い、よな」
「待て!」
「!」

 暫くして、由樹が離れようとするので優人は思わず叫ぶと由樹はびくりと震える。優人の背中に回された手は今でも臆病に震えていて、その震えすら愛しく思った。優人も抱きついて、これでもかと抱き締める。優人の力は強く、由樹は締め上げられて悲鳴を上げたが優人はその手を離さなかった。

「なになになに、いたい、ちょっと、離せ!!」
「やだ、だめ、離さない!」
「いたたたた、お願い、ごめん、もう言わない、好きなんて、言わないから!」

 由樹の方が背が高いと言えど、力は優人のほうが優っているので勝てるはずもない。由樹は優人が自分が気持ち悪いことを言ったから怒っているのかと、情けなく折れると、優人は力を抜いた。どれだけ嫌だったんだ、と由樹が落ち込みそうになったとき、優人は由樹を見上げる。まん丸の目が由樹を捉えて、由樹はつられて目を見開いた。優人は不機嫌な顔をして、口を開く。

「だめ、それは許さない。好きって言わないなら、また抱きしめる」

 優人の言葉がすぐに理解出来ずに由樹が首を傾げると、優人はまた力強く抱きしめた。瞬間、由樹は痛みで理解力を発揮し、泣きそうな声で言う。

「好きだ! 好き、痛い、ごめん、好きなんだ!」

 言うと優人は力を緩めた。由樹がおずおずと下を見ると、優人は由樹が大好きな笑顔で見上げている。
 その表情が可愛くて愛しくて、由樹の目尻も下がり口元も緩んだ。勢いに任せて抱きしめると、今度は優人が痛い、と唸る。

「ご、めん。でも、なんか幸せなんだ。離したくない。どういうこと、なんだ? 俺は保逗くんを好きでいいの?」

 弱々しく言う由樹に、優人は胸の中で頷いた。その揺れがオーケーのサインだと分かったとき、胸につっかえていたものが取れて、我慢していた涙も出てしまう。優人の肩に頭を乗せて、じわりと優人の服を濡らして行った。優人は、ゆっくり口を開く。

「由樹が、好きな人いるって言ったとき、俺ムカついたんだ。嫉妬ってやつだ。俺恋なんてしたことないから、由樹が先に恋したのをねたんでんのかと思った。だからこの汚い感情、ばれたくなかったんだ。遥歩に相談したら爆発してないちゃうし、そのときに由樹来て、これ聞かれたら嫌われるって思ったら手を払ってたんだ、ごめんな。」
「そう、だったのか。でも」
「話の続き、黙って聞いて。」

 優人が言うと、由樹は黙って頷いた。優人はそれを確認すると、また話をし出す。

「でもその気にしていることが不思議だったんだ、俺は誰に嫌われようと、自分のしたいようにしてた。人目なんて気にしなかった、でも由樹には嫌われたくないって思ったんだ。この時からあれって感じで。で、今日由樹が保泉と居る時とか保泉殺したいくらいムカついて。そんで、」

 保泉の怯えた顔を思い出して、由樹は泣きながら笑うと、優人はその涙を拭いた。

「由樹から好きって言われて、嬉しかった。嬉しくて、たまらなかった。俺は由樹が先に恋したのをねたんでたんじゃない、由樹が好きだから、由樹に好きな人が出来てショックだったんだよ。俺恋とか初めてで凄いパニクってよくわかんなかったけど、今は落ち着いたから言えるよ。」

「俺は、由樹が好きだ」

 由樹の目からも、優人の目からも、涙が落ちる。それは悲しいからじゃない。生きていて、これ以上にないくらい幸せを感じたからだ。初めて抱く感情、苦しくて傷付いて悲しんだが、それ以上に嬉しい。
 嗚咽が出るほど泣く由樹の顔を見ながら優人は微笑んだ。そして情けなく泣く、自分の愛しの人の頭を胸に抱く。もうちょっと身長が欲しかったな、と苦笑いしながら。

「保逗くん、どうしよ、涙が、止まらなっ」
「俺もだよ、止まんね、はは」
「好き、好きだ、好き」
「うん、俺も、由樹が好きだよ」
「好きだ」

 そう言うと、由樹は優人の手を握る。優人もその手を握り返した。

「好き」



‐‐‐‐‐‐


「え、ちょっと待って!」
「なに?」

 一番楽な体育、そしてその中でも楽な自由時間。そんな時間に、昨日あった事をまとめて聞いた遥歩は由樹の肩に手を置く。由樹が微かに汚いものを見るように顔を歪めたのを見て少しHPが削れたが、今はそれどころではなかった。遥歩は頭で聞いた事を片付けて笑いかける。

「で、それで付き合ってないと?」

 由樹はきょとんとした顔をした。遥歩もその顔に合わせてにっこり笑いながら、遠くで誰だか知らない人とバドミントンする優人を見る。どこに飛ばしてんだ、あのバカ。

「ああ、だって俺ら男同士だし。付き合うもなにもないだろ」

 なにをバカなことを、と言いたげに飽きれた表情をする由樹に殴りたいと思うのは遥歩だけではないだろう。心の悪魔がだからお前いじめられるんだよ、と囁いたが、ブラックジョーク過ぎて笑えないので、心の奥にしまっておいた。
 いやいや、そこまで行ってなんで付き合わないのお前ら、ばか!?
 この世の中、男同士で付き合っている人もいる。それは個人の自由だ、誰も口出し出来ないのだから。きっと恋も知らなかった甘ちゃん二人はそれすら知らないのだろう、男同士の愛し合い方を知った時にはどうなるんだろうとこっそり思った。ノーマルのAVの動画を開けようとして間違って男同士を見た時のトラウマを思い出し、遥歩は一気にテンションを落とす。

「付き合えばいーのに、俺誰にも言わないぜ?」
「はいはい。もういいんだよ、俺も保逗くんもスッキリしてるし。」
「ふーん」

 ま、本人たちがそう思ってるなら、と思いながらももやもやするのは何故か。だがさすがに好き同士の間をこれ以上口出しするのは野暮かと遥歩は口を閉じた。寒々しい空だが、暖かい太陽がみんなを照らす。

「俺は保逗くんと居れるだけで、幸せなんだ」

 由樹が幸せそうな顔をするので見惚れていると、遠くで保泉の怒鳴り声が聞こえた。どうやら優人がシャトルを保泉の頭に当てたらしいが、あんな下手なプレイじゃ当たり前だ、と遥歩は思いながら昼寝の準備をした。由樹は笑いながら、優人に手を振る。優人はしたり顔をしながら、由樹に手を振った。あの顔、どうやら、羽が当たったのではなく、ワザと当てたらしい。

 ん、優人、保泉に何か恨みでもあったのか?

 思いながらもそりゃ恨みなんていっぱいあるか、と笑いながら遥歩は目を閉じた。








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