「いっただきまーす!!」

 待ちに待った昼食の時間、保泉が睨んでいるのをまるで無いことの様に、優人は嬉しそうに声を上げた。そんな幸せそうな優人とは反対に、由樹は目の前の遥歩を睨んでいる。そして思う、なんでこいつがここにいるんだと。
 優人から聞いた話だけだが、遥歩は優人と高校入ってからの友達、いわば親友らしいのだが、由樹からして見れば優人を裏切った卑怯者としか思えなかった。優人が優しくて人を見抜けない人間だということは、少ししか過ごしていない由樹にだって分かる。だからこそ思う事があった、こいつが保泉の方に寝返った時息の根を止めるのは俺だ、と。
 優人は今回の犯されそうになった時に遥歩を助けてくれたと言うが、暴力事件の時に優人を蹴って怪我を負わせたのは他でも無い遥歩だ。そんな怨み、監視も含めて由樹は眈々とご飯を口に運びながら、鋭い視線を遥歩に注ぎ込む。遥歩は耐えられなくなったのか、由樹をチラ見しながら口火を切った。

「なんか言いたい事でも?」
「ああ、言いたい事ならいっぱいあるけど。保逗くんを裏切った奴がよく友達をやり直せると思ったな、とかな。」
「ちっ、性格わりい」
「どっちが」

 話を聞いていない優人は二人が火花を散らしている理由など考えず呑気に、こっそりと遥歩の弁当からメインディッシュであろう海老フライを口に含む。だが、すぐに遥歩にばれて騒ぐ羽目になるのだが。

‐‐‐‐

 授業も終わりリュックを背負った優人は最近一緒に帰っている由樹の元に行こうとするが、その前に遥歩も誘う為に遥歩の元へ駆け寄る。遥歩は一人で帰る準備をしていたので驚いた顔をしたが、優人の誘いをことはなかった。
 三人並んだは良いが、並び方が悪い。左端は遥歩、真ん中には由樹、右端は優人。遥歩と由樹は優人を真ん中にしたかったのだが、睨み合っていると壁沿いに優人が歩いてしまったのだ。優人の隣を争うも遥歩は負けてしまい、なんとも酷い絵図になる。

「ゆ、優人、こっちおいでよ」
「なんで?」
「なんででも!!」
「このバカのいう事なんて聞かなくていい」

 遥歩を睨みながら由樹は優人を見えない様に庇い始めて、遥歩も負けじと睨み返した。
 だいたい、お前が虐められてたせいで優人があんなことに!
 遥歩も半分人のせいにしながら目で責めると、由樹はそれでも優人の前を退くのをやめない。遥歩はついに怒鳴ってやろうと思ったとき、優人のため息で二人は止まった。

「お前らなに睨み合ってんの?」

 内戦がバレてしまった!
 気付くなという方が難しい戦いを気付かれたと、遥歩は焦りながら由樹を見る。すると、由樹は遥歩を見る時の表情とは天と地の差な優しい顔を見せた。

「ごめん」
「いいけど、ここまで来たなら仲良くしろよ。俺喧嘩とかもうやだぜ」
「するわけないだろ。まあ、こいつはどうか分からないけど」

 遥歩を見下す様に見ながら由樹が言うのを見て、遥歩は歯を食いしばる。最初に喧嘩をふっかけて来たのは紛れも無く由樹の方なのに、その事実を遥歩になすり付けようとしているのだ。由樹の言うことを信じた優人は、頬を膨らませて遥歩に近寄る。

「ダメだろー、遥歩!」
「俺じゃねーよ、なんだお前は俺が悪いって言うのか、親友なのに! ああ、信じてたのに、酷いな!」
「う、べ、別に遥歩を悪いなんて言ってない。え、と、そう、由樹も悪いぞ!」
「俺が悪い? えーなんで。俺なにもしてないって言ってるだろ。あー保逗くんもそんなこと言うのか、酷い友達になってくれるっていったのに、裏切られた」
「え、あ!」

 遥歩のこじ付けに対応できなかった優人は由樹も怒るが、由樹の方が何倍もうわてだ。由樹の言葉に友達を大事にしている、優人は動きを止めると下を向いてしまう。
 由樹と遥歩は目を合わせてると、からかい過ぎたか、と謝る為に背中をさすったり頭を撫でたりするが黙ったままだ。由樹も遥歩も自分が悪いと言おうとした時、優人が小さく言う。

「じゃあ俺が悪いでいいから、とりあえず仲良くしてくれよ」

 疲れたように言う優人に、二人は同じようにため息をついて優人を真ん中に入れるとどちらも優人と肩を組んだ。そして、引きつっているが笑って見せると優人は簡単に騙されて笑って返す。二人は安心したように肩を下ろして、話を始めた。話して見れば悪い奴ではない、と優人も入れてたわいもない話をするわけだが、遥歩は由樹を見ていて思う。優人の事を見る由樹の顔は本当に優しくて、まるで恋人を愛しむような顔で。

 こいつもしかして、優人のこと好きなのか?

 男同士だが、優人の正義(というより気まぐれか分からない)が由樹な人生を変えたのだ、恋愛対象になってもあり得ない事もない。
 いやいやそんなこと考えるな! むり、きもい、ないから!
 遥歩は良からぬ考えを頭を振って飛ばすと、学校から一番近い優人の家で優人を見送った。そしてすぐに由樹を見ると、由樹の顔には仏頂面が舞い戻る。遥歩はため息をつきそうになるが耐えて、由樹を見た。

「お前な、態度変え過ぎ」
「変えた覚えはない、勝手に態度が変わるんだ」
「んだそれ」

 遥歩が眉間にしわを寄せて睨めば由樹は無言で駅のある方向へ歩き始める。これから遥歩は彼らと共に行動するので、今のうちに由樹と仲良くしなければならなかった。早歩きの由樹の隣にいくと遥歩は話題を考えるが、なかなか浮かんでこない。話が上手なのが遥歩のウリだが、由樹は他の人間よりうまくいかないので、少々面倒だ。さてどうするか、と思った時に頭に過ったのは先程考えたことで、考える暇も無く口から出る。

「お前、優人のこと好きなの?」

 早歩きだった由樹も流石に歩きが遅くなるが、彼の足は止まることはなかった。由樹は振り返ることもない。

「いい奴と、思う。」
「そういうんじゃなくてさ、恋愛対象だよ!」
「はあ?」

 なにを馬鹿げたことを。
 やっと振り返った由樹の顔はそんな顔をしていた。遥歩はそこで安心すると小走りで由樹に立ち寄る。
 そうだ、そんな筈ない。考え過ぎだったのか。
 虐められていたこともあり由樹のことは少しずれた奴なのかと思っていた。だが話してみると普通に常識人だったし、周りのみんなと変わりない由樹が少しずつ見えてきて、遥歩は由樹と友達になれる気がする。遥歩が咳払いをしながら、由樹を見た。

「ごめん、変なこと聞いたな。優人を見る由樹くんの顔があまりに情熱的だったから」
「ふざけはやめろ」
「ごめんってば」

 反省しているように見えて、心の中ではこれっぽっちも謝る気のない遥歩に由樹はため息をつきながら歩幅を合わせる。優人のことを優しい顔であれやこれや話している遥歩を見て、お前も人のこと言えないだろう、と笑いながら遥歩の警戒が解ける由樹だった。






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