好きだと言ってしまえば楽なのだろうけど、邪魔はしたくない。海飛は二人を見てそう毎回思っている。

「体育館先行ってるな」
「ああ」

 相変わらずマイペースな龍太は置いといて浩にいうと、浩は返事をしながら体操着に着替えていた。その背中を見ながら龍太が頬を染めたのを見て、海飛は首を捻る。
 やっぱ俺、邪魔物だなあ。
 思いつつも一人は寂しいので、もう体操着に着替えて暇そうにしている桐間の目の前に行った。桐間は海飛がきたのを見て、口を曲げる。

「なに」
「桐間くん、一緒に行こうよ」
「はぁ、なんでお前と」
「ひどいなー」

 と言いつつもさりげなく海飛の隣を歩きはじめ、素直じゃないな、と海飛は笑った。
 3年になってから3ヶ月経つ。海飛は高校1年生からもともと仲の良かった龍太と3年間クラスが一緒だ。そして今その龍太のツレ、浩と桐間と仲良くなったわけだが、浩は今までにないおとなしいタイプで扱いづらいし、桐間は毒舌過ぎてよく言い合いになる。まあ、どちらも悪いやつではないので、海飛もなんだかんだつるんでいるわけだが。
 体育館につくと、暑苦しい空気がじめりと頬を撫でた。風がないため、熱気だけが籠っている状態である。海飛はいそいで桐間と扉を開けて風を入れるため必死になっていると、あけた扉からは浩と龍太が仲睦まじく歩いているのが見えた。そこで海飛は手を止める。
 海飛は、龍太が好きだ。高校に入ってから出会ったばかりで短い時間しか共にしていないが、海飛は確実に龍太をひかれている。龍太と海飛はどちらも家庭環境は良くなく、夜二人で集まったりもして同じような環境で育ったからこそ海飛は龍太のことが理解できたし、龍太は海飛をけなしながらも彼も海飛をよく知っていた。孤独な同士、慰めずともなにがお互いを喜ばすか知っている。お互いに特別な関係だということだ。
 だが最近はわかってきた、自分が龍太に向けている特別が普通の特別ではないことを。
 龍太はもちろん違う。海飛をあくまで友達と見ていた。それは当たり前だ。自分を女のように見てほしいなんて女々しいことは頼まない。だが、一番になりたいと思った。恋愛感情でなくていいから、龍太の一番に。
 まぁ現実そう上手くいかないよな。
 海飛は二人を見ながらため息をついた。龍太には、好きな人ができてしまったのである。また龍太のの友達の一番はその人、海飛は友達でも一番になれなかった。龍太が浩という友人に向けている特別な感情も、浩がその感情を受けてまんざらでもないことも、冷静に判断することが出来た。それを踏まえて、海飛は龍太には想いを告げないと決めている。自分の告白はせっかく上手くいっている二人の仲を壊すには容易いものだとわかっていたからだ。
 3年になればクラスも離れて龍太と浩を見なくて済むと思っていたが、現実は残酷なもので目の前で見せつけられるのは苦しすぎると泣きたくなった。2年生のときは他に行動していた友達はたくさんいたが、3年になってからは龍太しかいないので自然と行動は一緒になるので居る時間も多い。もちろん、浩とも。

「なに見てんの」
「ぅお!」

 二人を見ていたら後ろから桐間がからかい口調で話しかけてきたので、海飛は急いで扉を閉めた。その行動は不自然過ぎるし、海飛の顔は焦りで真っ赤に染め上がるので桐間はにやりと笑う。

「開けてよ、暑いじゃん」
「だ、だめだ。あ、えと、そう! 外めっちゃ虫いた。今ここ開けたら虫入るぞ!」
「俺、別に苦手じゃないし」

 桐間は言いながら扉に手をつくと、海飛は顔色を変えた。ダメ、と手を広げて扉を開けさせないようにする態度が面白くて、桐間は扉に何度も手をかける。
 あーだこーだとしているうちに授業が始まり桐間とやり取りをしているので気づかなかったが、もう浩と龍太もとっくに来ていた。海飛と桐間は怒られながら列につくと、海飛は龍太と目が合う。だがすぐ反らされたので、特に気を止めずに体育の時間を楽しむことにした。

‐‐‐‐‐‐‐


「海飛、一緒に帰んべ」

 HRが終わると浩と桐間はバイトなのですぐに帰ってしまい、取り残された龍太は海飛に話しかける。いつもならば浩が帰ってしまっても海飛には話しかけない龍太だが、今日はなにかと気分がいいらしい。海飛にとっても龍太と二人になるのは久しぶりだったので即行にいえす、と返事をしたかったわけだが、今日は掃除当番であった。こんな日に限って、と自分の不幸さを呪う。
 すこし期待を乗せて、今日掃除当番だから待っててくれるか、と聞けば龍太はひきつった笑顔になりながら帰っていった。龍太はきまぐれだし自己中心的なので答えはわかっていたが、ショックなのは変わりない。教室のごみを片付けながら、海飛は肩をおとした。

「おい海飛、これごみ捨て場まで持って行ってくれるか」
「はいはーい」

 担任は海飛が落ち込んでいるなど露知らず、雑用ばかり頼み海飛を追い詰めるばかりである。ごみが詰められたビニール袋を3つほど引きずりながらごみ捨て場まで向かった。3年の教室は2階なのでグラウンドの端にあるごみ捨て場に近い。だが、さすがに重いものを持っていたら遠くも感じる。心なしか、少しごみの臭いがする気がした。

「うおっ、つーかごみ袋穴空いてんじゃん!」

 引きずったせいか、パンパンに入っていた袋は穴が開いてあちらこちらにごみを散らばしている。海飛はきた道を戻りながらごみを拾い、つくづくついてないと思った。だから少し位は癒しがほしい、新しい出会いだとか。
 そう例えば、こんなとき。女の子があっち側から拾ってくれてるみたいなシチュエーションね!
 残念ながら海飛は妄想だけは得意である。清楚な女性に憧れている部分があり、生徒会長とか希望、などと頭を巡らせていた。あるはずもないことを想像するのは、彼の傷を癒すらしい。実際そういう出会いはなく、結局ごみの山を一人で回収すると自分のごみ袋へと詰めて穴を押さえながら歩いた。
 ったく、俺ほーんと不憫だよ。
 ついに自分でも自覚した海飛は半泣きになりながらとぼとぼとごみ捨て場に向かう。さて、あと少しとなったとき手が滑ってごみ袋を落としてしまい、盛大にごみをぶちまけた。
 もう、嫌だ。
 歩く気すらしなくなった海飛はその場に座り込む。太陽はそんな海飛にお構いなしと酷く照りあげるし、蝉は耳障りなくらい鳴きあげた。世界が敵に思えてきた、そんなとき、隣のごみがひとつなくなる。

「大丈夫ですか、なんかすごいことになってますが」

 低くて透き通る声が耳に響いた。聞いたことのない男の声なので自分に話しかけられたわけではないと思い海飛はしゃがみこむとごみを拾いに向かうが、ちょうど拾おうとした手が重なる。綺麗に伸びた白い指が、海飛の指を触った。

「え、あ」
「すみません」
「いやいや、その、あ、ありがとう。」

 海飛が急いで立ち上がりながらいうと、男は海飛を見た。さらさらの黒髪が整ったシャープの輪郭に掛かり、背は男から見ても高い。どこかの雑誌に載っていてもおかしくないほど男前で、優しそうな微笑みに正直見とれてしまった。
 こんな出会い方、女の子がよかったけど
 彼が凄く綺麗なので、どうでも良くなる。彼は海飛を見た。

「いえ。それよりそれ重いですよね、ちょっと貸してください。」
「いや、あの」
「遠慮しないで下さい。こういうのは助け合いですよ。」

 海飛が放置していたごみ袋を二つ持つとごみ捨て場に放り投げ、また戻ってきてこぼしたごみを拾う。二人で拾えばたいした量ではなく、すぐに片付いた。彼は穴の空いたごみ袋を海飛の手から取り上げようとしたので、さすがに任せるわけにはいけないので海飛は小走りでごみ捨て場に向かう。
 戻ってきた海飛は少しの距離だと言うのに、肩で息をしていた。彼は大丈夫ですか、と背中を擦り海飛はびっくりする。
 まさかかっこよくてこんなに良い奴がこの学校にいるなんて!
 初めて知った事実に、興奮気味に彼を見た。彼は、困った表情でこちらを見返す。

「あの?」
「お前、かっこいいなー。名前なんていうんだ?」


 海飛はあまりにも感動しすぎて素直に声に出していうと、彼は一瞬動きを止めて、すぐに笑いだした。さっき優しく微笑んだようではなく、腹から笑いあげる。海飛が言ったことはたしかに不自然だが、引かれると思っていたので笑われるのはびっくりした。

「あっ、はは。すみません、あの、前にも同じように言った人がいたので、思わず」
「え、まじ、俺みたいにバカなこというやついたの?」
「バカというか…ふふ、とりあえず面白くて。」

 すみません、と咳払いすると彼は掌を広げて、海飛を見る。

「柏島木葉と申します、貴方の名前も教えてもらって良いですか?」

 にっこりと笑う彼の笑顔は反射した太陽に負けじと輝いていた。蝉の鳴き声が増して、海飛は目をつむる。
 もう、限界だ。
 真っ暗闇の中、木葉の声がした。








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