「忘れ物したから戻る、帰っていてくれ」

 ちょうど校門から出たとき、浩がゆったりと申し述べた。龍太は日差しに浴びながら、浩の涼しい顔を見る。
 浩が忘れ物か。
 龍太はポケットに手をいれながら様々な考えを巡らせたが、すぐに笑顔へと変えた。

「俺もついてく!」
「いや、いい。戻るの大変だろう」
「このくらいの距離、大変じゃねーだろ。いいから、俺もついてくよ」
「いいから、帰っていろ」

 強めの口調に、龍太は口がひきつる。強く拒否されたことに苛ついたのではない、なぜ学校に戻るのかが分かったからだ。浩は忘れ物と言ったが、きっと海飛の手伝いにでも行くのだろう。今まで浩が忘れ物などしたことはないし、これしきのことで遊びの約束をしていたのに先に帰っていろなどおかしい。
 すべて憶測ではあるが、確信は持っていた。海飛が授業で注意されたときも、異常に心配して自分から手伝いに行くといったが、海飛に断られ少し残念そうにしていたのをおぼえている。浩の面倒見のいいところは好きだが、自分以外を対象にされるとムカつくと龍太はひそかに思った。

「そか。」

 龍太が浩を一番に想うように、また、彼も龍太を一番に想っていた。龍太自身も浩が自分には少し特別なことはわかっていたが、なんせ龍太は浩のことになると嫉妬深い。自分以外が浩と話しているだけで、どうしようもない感情が龍太を困らせるのだ。
 海飛のばかやろう、最近浩と仲がいいんだもんなー。
 悔しく思いながらも、海飛は龍太が思っていることを察して行動を控えめにしていることが少し嬉しかった。凄く勝手だが海飛が自分を気にしてくれることが、嬉しくてたまらない。そう考えると海飛のことも、だんだん考えてしまった。
 龍太のせいなのに一人で先生からこき使われてると思うと面白いとは思うが、半分悪い気がしてくる。浩と海飛は話してほしくないとは思うが、少し、気になった。

「龍太」
「ん」
「お前もなにか忘れ物あるだろ」

 得意げに笑われて、龍太は目を見開く。なんと、浩はすべて分かっていたのだ。意地が悪い、言おうとしたが、たしかに浩から『海飛の手伝いに行くが龍太も行くか』とでも言われるようなものならば、返事は変わっていただろう。
 浩はこちらを見ながら、どうするといった表情で返事を催促した。浩にはかなわないと思いながら、龍太は口を開く。

「じゃあついでに、あのバカの手伝いしてやってきてくれよ」

 龍太がぶっきらぼうに言えば、浩は素直じゃないな、と愛しそうに笑った。





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