貴方に会えた奇跡は取り柄のない俺に神様がくれた最高のプレゼントです


 清野は会田を見ていた。たったの5分だったが室津の言っていたことがだんだん分かってくる。見てみればわかる、室津はやる気などさらさらない。出来る限りのことはやっている、だけだった。瞳に光などない。
(もー、会田さんどうしたんだよぉ)
 あんなに生気がないと、普段助言を言われる方の清野でも会田のことが心配になった。可愛いなど言ったことを取り消す。もう病気なのではないかと清野は、ギンギンと目を張らせながら会田から目を離せないでいた。

「おい、お前仕事しろよ」
「ご、ごめん。でも会田さんが具合悪そうで」

 井島田の説教に清野は素直に謝りながら、会田の不調を訴える。後輩ならばここはうそでも心配すべきだが、井島田は反対に鼻で笑った。

「あの人はすこしお灸据えとけ」
「ん、なに?」
「…バカめ」

 清野の頭をファイルで叩くと、立ちながら課長に報告書を渡す。なぜか今日の社員たちは調子が悪く仕事が進んでいないので、一番目の報告書に目を輝かせた。遅れをとったが、すぐに室津も報告書を出して課長は二人をみてまるで初めて子供が立ったのを見たお父さんのような顔をする。イイコイイコとほのぼのする課長は二人以外には鬼の形相を浮かべ、それを目撃した社員たちは急いで自分の仕事に取りかかった。
 だがそれを見たが顔色を変えずに急がず、一人だけふらふらと課長の目の前に出るものがいる。課長は顔をあげると、目の前にきた会田を見た。

「あ、会田くん?」
「あの、具合悪いんですこし休んでもいいですか」
「え、ああうんいいだろう。」
「じゃあちょっと付き添いで清野も連れていきます」
「うん、って、え、会田くん?」
「行くぞ清野」
「え、あ」

 会田は混乱する課長をおいていくと、清野の腕を取ってオフィスから出ていく。会田はいままでサボりなどしたことはないし、なによりこんなにハキハキした行動を見せたことなかった。ただ課長はうっすら思う、そのハキハキした姿、仕事面で見せてくれたらな、と。

 なにも言われないまま会田に連れていかれる清野はどうしていいかわからなかった。こうやって会田に連れていかれるのは二回目だが、前回とは違い今回は怒っていないが病んでいるため清野は反応に困る。具合が悪い会田の手を振り払うのは気が引けたからだ。だんだん動きがゆっくりしてきた会田を見れば、心なしか顔色が悪い気がする。
(もしかして俺が叩いたところからバイ菌が入って…!?)
 着眼点が可笑しいどころか、ありえない被害妄想をだんだん膨らませていく清野はとりあえず叩いたことを謝ることにした。

「会田さん、頬叩いてすみません! 俺、したなのに本当に失礼なことしました。キスなんてもう気にしていませんから、ほら俺男ですし、減るもんでもないですし、だから一緒に病院行きましょ…」
「なんで」
「え?」
「なんで俺に告白したんだ?」

 清野が謝り病院への勧めすら無視し、会田は平然と質問した。無視したというより聞こえていない、といった方が正しいだろう。
 清野は会田を見上げて何を考えているか読み取ろうとしたが、その表現はいたって無表情。読み取ることは不可能だ。しかたなく本音を言うことにした。

「え、と。このまま隠しておくのも辛いですし、色々あって言わなきゃいけない事情に追い込まれて。あのぉはい、告白してすみません」
「告白してこなきゃ、あのままでいれたのに。」

 会田の呟きに、清野は気付く。今まで怒っていたのは、そういうことだったのかと。そして理解したと同時に後悔が襲ってきた。
(自分のことばかり考えているから、こうなるんだ)
 あのままでいれたのに、つまりは純粋な先輩後輩でいれたのに、ということだと清野は思った。だとすれば、告白したことで自ら破壊したものと同じである。

「す、すみませ」

 いまにも泣き出しそうな声で清野が言うと、会田は目を細めた。歩いていた足を止めると、清野が会田の背中に飛び込む。ぶつかった感触に会田は振り返ると、清野の肩をつかみ向き合った。そして会田が顔を近付ける。

「告白されなければ、こんな感情、名前をつけなくて良かったのに。」

 聞き返そうとする清野に会田は前のめりになり、清野との顔の距離が数センチになった。清野が顔をそらそうとすると、会田の頭が肩に乗っかる。清野は会田のいったことを思い出してみても、理解できなくてしどろもどろした。自分の考えていた意味とは違うらしい。清野は怒っていないようだしよかったとは思ったが、また課題が出てきた。自分が告白したことで会田が気付いてしまった感情とは果たして何なのか。だが会田の言い方から、自分によって見つけられたその感情は良くないものと思った。もう一度謝ろうかとした瞬間、会田の吐息が耳にかかる。

「一緒にいてくれ」

 聞こえた声に清野は、気を失いそうになった。耳元で呟かれた時点でキャパオーバーであるのに、好きな人に一緒にいてくれと言われ発狂したくならないやつなどこの世にいるだろうか。
(もう死んでもいい!)
 嬉しく思いながらも、会田の言葉について違和感を覚えた。話が繋がらなさすぎる。
(一緒にいたいのは、俺の方が気持ち上だよ。なんで俺が好きって知ってて、こんなこと…ありえない)

「会田さん、すこし意味がわかりません。なんですか、いきなり」
「いきなりじゃない、前からだったんだ。無理、俺清野いないと無理だ。お前じゃなきゃ無理だ」
「す、すごく嬉しいですが、その俺は」
「こんな、自分が清野に向けてる恋愛感情気付きたくなかった」
「え」

 え、え、ええええ!?
 声を出して叫びたいが、今はあくまで仕事中。清野はなにも言わずに震える手で会田を剥がすとこれでもか、というくらい肩を落としていた。そのあの、と切り出す。

「もしかして、会田さんも、俺のこと」

 確信について清野がいえば、会田は自分の腰に手をあてて顔をあげた。そしてふっきれたように大きすぎる声で、高らかに言う。

「ああ、そうだ、清野が好きだ。もう男でもなんでもいい、俺は清野が大好きだ、清野がいなきゃだめなんだ!」

 どうだ、と言わんばかりの会田の表情に、清野は嬉しいのに笑えなかった。感動しすぎて声が出ないのだ。なにか言おうとしているのに、喉に物が詰まったように言いたいことは出ない。
(どうしよう、嬉しい、どうして、好きだ、この人が、あなたが、愛しい、俺も)

「俺も、〜っ、あなたがいないと、ぅうだめなんですぅ、好きなんです〜っ!」

 ぽろぽろ流れる涙に会田は戸惑ってはいたが、すぐに緊張はほどけて清野の涙をスーツの端でふいた。嬉しそうに笑いながら、いつも通りの低い声で泣くな、と一言だけいうと、清野を抱き締める。
 仕事中で誰もいないと言えど長時間抱きあっているのはまずいと会田はすぐ離そうとしたが、自分の腕の中で嬉し泣きする彼を離したくはなかった。しゃっくりが出る清野の背中を撫でながら、会田は清野の頭におでこをぶつける。

「付き合って、くれるか」

 それは今までに無いようなひどく怯えた声だった。清野は顔をあげると、会田の頬を包みながら、一言返す。すると会田は安心したように、清野へ頭を預けるのだ。

「ずっとそばにいてくれ」




不思議を解きましょう
(それは、もう治ることのない不治の病でした)



(よう、待ってたぜ清野クン。うまくいったか?)
(ありがとう、井島田。うん。実は…付き合った(小声))
(うっそー、まじかよ!!)

(おい、会田、大丈夫だったか。)
(ああ、解決した。ありがとう、室津)
(はいはい)

(清野、これ今日中に終わらせといてくれないか)
(会田さん! ああ、はい。わかりました。)
(それと、今日暇か)
(え?はい。え、もしかして残業ですかっ)
(いや、あの…今日帰りどこか行かないか)
(あああああ、はいっ!)




 お前ら、仕事しろ。
 密かに思った一部社員と課長だった。





    HAPPY END !!






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