次の日もいつもと変わらず四人で輪を作るようにして弁当をつつく。柔らかな風を受けながら、龍太は桐間をからかい、浩は弁当に夢中になっていた。春は、そんな三人を見ながら、口を開く。

「デート、やっぱりいいや」

 春の言葉に、騒いでいた桐間と龍太が止まった。錆び付いたロボットのように動きを鈍くしながら、首だけ春に向ける。春は二人に見られても、ニコニコと笑顔を絶やさずにご飯をすくいあげた。そんな春を見ながら、このなかで春の一言に一番ダメージを食らった桐間が春にいう。

「なんで、なんか不満?」
「違うよ、不満なんかあるわけないじゃん」
「じゃあなんだよ?」

 企画した側の龍太も思わず突っかかった。だいたい龍太が企画したのも、桐間が春のために頑張るところを見てみたいというのもあったが、本題は春に喜んでほしいと言うものだ。春は桐間に我が儘を言うことはないので言いはしないが、きっときちんとしたデートの一つや二つ、いつかはしたいだろう、と思い龍太はこの話を持ち出した。
 それだというのに相手側の桐間ならばまだしも、目的本人に止めようと言われては龍太も理由を聞くことしか出来ない。自分のしていたことはお節介だったのかと肩を落とす龍太に、春は慌てて訂正に入った。

「ああ、違うんだよ。俺はねデートがしたくないわけでも、龍太が企画してくれたことが嫌な訳じゃない。その逆。本当に超嬉しいんだよな、やばいくらいに。俺のためにしてくれたことが。だから、もうこれでいいかな、ていうか、…幸せでお腹いっぱい!みたいな、さ」

 だから、もういいよ。
 春が二人に笑いかける。二人はマイナスの方に考えていたのを、申し訳なく思えてきて、春に笑い返した。春の隣にいた浩は聞いていないように見えるが聞いていたようで、誉めることはなく春の頭をただ撫でるだけだ。春も振り払うことなく、なすがままになる。春の向かい側に座る龍太は感動のあまり、今にも飛び付きそうだったが、お見通しな桐間は龍太の首根っこをつかんでいたので実際飛び付くことはなかった。
 ほんわかと優しい空気が流れたところでチャイムが鳴る。一番もんく言うと思った龍太は意外と聞き分けよく、すぐに立ち上がり教室に向かっていった。浩も立ち上がり、龍太のとなりを歩く。珍しく浩から龍太に話し掛けて、次の授業がめんどくさい、などともんくをたれた。
 その後ろで、少し遅く立ち上がった春の横に桐間はたち、歩幅を合わせる。春はどう切り出せばいいか迷っていて、口をとがらせながら声を出した。

「ごめんな、せっかく超考えてくれたのに」
「別に。実際バイトの休み取れなさそうで困ってだんだよね」
「そうなの、なら迷惑かける前で良かった」

 春は言いながら桐間の顔をのぞきこみながら笑うが、反対に桐間は笑っていない。なにを怒っているのだと焦っていれば、桐間は不満げに目を伏せた。

「デートは、絶対いつか行くから。迷惑とか気にしなくて、いいんだよ…、恋人同士なんだから」

 口調が変わり、最後の言葉だけ声が小さいので、桐間が照れていると気づくにはさほど時間はかからない。春は自分で言っておきながら異常に恥ずかしがる桐間の横顔を見て、嬉しさの方が数倍増した。
 誰も周りにいないことを確認して、春から手を繋ぐ。外にいただけあって、指先は氷のように冷たかった。桐間は驚きながら春を見て恥ずかしさのあまり振り払いたくなるが、前の二人が妙に気を遣っているのが桐間にはわかるので、ここは甘えようとおもう。
 ちょうど校舎の裏の死角に入ると、桐間は立ち止まった。手を繋いでいる春も止まって後ろを振りかえると、桐間は一歩踏み出す。そして、前にいた春に優しくキスをした。リップの音もならないくらい、優しい。
 春が固まっていると、桐間は春の頬をさすった。火照った顔を見て、おかしそうにわらう。

「暖まった?」

 春はじわじわとくる暖かさにただうなずいた。桐間も恥ずかしそうだが、やはり嬉しそうで頷き返す。

 いつもとなにも変わらない、昼下がりの出来事であったが、彼らはどうしようもなく幸せだった。





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