会田心視点

「こんにちは、会田(アイダ)さん!」

 コピーをしていて暇をしていたところ、元気よく挨拶したのは、俺の後輩の清野(キヨノ)である。俺が頷くと、清野の嬉しそうな顔をして、どこかへ走って行った。自分で言うのはなんだが、かなり俺に懐いている。いつも真っ直ぐな目で俺を見て、尊敬の眼差しを向けるのだ。俺のような無愛想な奴(自覚はしている)についてきてくれるなど、かなりの物好きだ。
 出会いは2年前、俺が24の時だ。清野は高校を出たばかりで、ここに来た。頭は良くてかなり良い高校から出ているのにどこか抜けていて、失敗ばかりしていた。そんな清野が放っておけなく、世話している内に懐かれてしまい、現在、べったりというわけであるのだが、
(気持ちは嬉しいが、こうも好意をむき出しにされると困る)
 高校の時の部活でも、後輩から何度かこうやって好かれることはあったが、やはり慣れない。俺は奴とどうやって接すればいいか、2年もいるのに分からないで居た。奴は俺を知りたがって、自分のことは話さない。だからと言って、俺からは聞けなかった。
(別に知りたいという訳じゃ、ないけど)
 もやもやしながらコピーをしたプリントを取ると、席に戻ろうとしたのだが、簡単には戻れないようだ。

「…清野」
「すっ、すみません!」

 どうやら珈琲を落としたらしく、床には珈琲が水溜まりを作っていた。一生懸命拭いているので放っておくこともできず、俺もしゃがんでティッシュを取った。
(にしても、なんで珈琲?)
 確かこいつは、珈琲が飲めないと言っていたはずだ。匂いが駄目だ、とか前に言っていた気がする。そしてよく考えてみれば、この先は印刷室と、本棚しかない。そこに行って、飲まないだろう。そうなると、

「これ、俺に、か」
「え、なんで分かったんですか」

 清野は目を真ん丸にして俺を見る。俺はため息を吐くしかなかった。
 一生懸命なのも、こう尽くしてくれるのも有難い。けれど仕事を増やされては、たまったもんじゃない。

「もう何もしなくていいから、早く仕事に戻れ」

 あ、しまった。思ったよりも冷たい声が出てしまって、後悔したときにはもう遅かった。清野は目に涙を浮かべながら、はい、とだけ言ってオフィスに消える。
(さすがに、今の言い方はキツかったか)
 反省。思いながらティッシュをもう一度取ると、珈琲を拭き取った。







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