清野の提案でお土産屋に入ったわけだが、清野以外の二人は特にほしいものがなそうにそこらへんを物色している。清野は井藤田と畠のおみやげを選びながら、たしか畠が羊を好きだったことを思い出して可愛らしいコーナー掛けていった。
 すると、そこには柚汰がひとりぽつん、とぬいぐるみを見つめている。清野は柚汰のとなりに行くと、しゃがみこみ、柚汰の名前を呼んだ。すると、柚汰は驚きながら、清野に蹴りをいれる。

「い、いきなり話しかけんじゃねーよ!」
「ご、ごめん。」
「さくやのくせに!」

 何故か怒りながら、清野から歩いて行ってしまった。もしかして自分が話しかけたのがうざかったのか、自分の嫌われようにショックを受けていると、目の前のぬいぐるみが目にはいる。清野はぬいぐるみを取り、眺めて柚汰の背中を見た。もしかして、と頭に過る。清野は畠のための羊のぬいぐるみと、そのぬいぐるみをもってレジに並んだ。



「そろそろ帰るか」

 会田が言いながら出口に向かおうとするのを見て、清野は柚汰を見る。柚汰はちらりと、握られたパンフレット見た。やはり、と清野は思う。清野は柚汰の手をとると、会田に背中を向けた。

「会田さんはそこから、絶対、動かないでください」

 はじめて見た清野のりりしい顔に、会田はそこで止まってしまう。どこにいくんだ、と聞いても電話するの一点張りで清野は会田を入り口へと残した。
 引っ張られる柚汰は、清野の手を振り払うが、再度手を取られてしまうので驚きながらも着いていくしかない。

「おい、どこいくんだよ」
「ふれあいコーナーかな」

 言えば、柚汰の抵抗は酷くなった。清野は何度も叩かれたり、蹴られたりもしたが、それでも怯まない。柚汰はどうにも行かず、ただその場に座り込むしかなかった。

「そ、そんなとこ、俺、行きたくねーよ」
「無理しなくて、いいんだよ。会田さんに憧れてるのは分かってる。けど好みも一緒にしなくても、いいんじゃないかな。」

 ね、と言いながら座り込んだ柚汰に手を差し出すと、柚汰はゆっくりと手をのせる。清野の反応を伺うが、清野は笑顔で返事をするばかりなので、柚汰は手を握った。
 ふれあいコーナーに行くと、柚汰は来たときと同じように目を輝かせてモルモットを膝におく。撫で方も分からないようで、清野を不安げに見た。清野は柚汰の手をとり、ゆっくりとモルモットの背中を撫でさせる。モルモットは気持ち良さそうに、目を細めていた。柚汰はそれをみて、嬉しそうに清野に知らせて、清野もモルモットをなでる。やはり、このときの柚汰の方が、子供っぽいな、と思い可愛く思えた。柚汰は、ただ、モルモットを何回も撫でてそこのコーナーから抜けていく。そして、清野は袋からウサギのぬいぐるみを取り出した。

「はい、柚汰くん」
「え」
「見つめてたから好きなのかと思って。」

 迷惑だったかな、清野は首をかしげながら、自信なさげにぬいぐるみを差し出す。柚汰は、泣きそうに顔を歪めて、清野に抱きついた。

「ありがとう」


 そのあと、会田になんだったんだ、怒られそうになったが、柚汰が会田におんぶをねだったためそれはなくなった。助けてくれたのかと思いながら、別れる道でさようならを言う。柚汰は、会田の背中の後ろで清野の名前をよんだ。清野が振り向くと、柚汰が手を振る。

「また、遊んでやるよ!」

 偉そうに言いながら笑う柚汰に、清野はお礼を言いながら手を振り返した。夕焼けは、二人を優しく包む。



憧れの背中
(柚汰、そのぬいぐるみ…)
(さくやからもらった!)
(そうか)
(あいつすきだよ)
(…ああ、俺もだ)





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