ひねくれていた新村(ニイムラ)が優しい上司富端(トミハタ)さんに恋をした

 いつの日か目を追っていた。俺の初恋が見つけられたのは、これが理由だった気がする。
 あの人への第一印象は偽善者。関わっていくにつれて、偽善者よりも面倒な奴だと気付くのは時間は掛からなかった。あの人の正義は高過ぎる。どんなくそ野郎でも放っておかない、例えばあの人の息子なんか良くないと酒の場であの人の上司から聞いた。あの人は隠しているのだろうが隠し事が上手ではないので、上司はすぐ気付いたという。あの人はその息子を更正させようと、意気込んでいるらしい。そして、あとはこの俺。俺様はかっこいい、女に不自由しない、性格わるいのは重々承知。けど、この世は所詮顔。なんてくだらないこと思っていたら、彼は苦い顔をして言った。そんなんじゃ幸せになれないよ、本当に好きな子を探しなよ、と。お前みたいなじじぃに言われたくねぇよ、なんて思って無視はしていたがしつこいしつこい。俺が幸せになれなくても、あの人には関係ないのに首を突っ込んできた。終いには、二人で呑みに行こうと誘われ、行ったら行ったで酔ったあの人は淡々と説教したり、そんなんじゃ君は性病になっちゃうよ、なんて泣き出す。居酒屋で散々暴れたあと、ずいぶんと勝手に潰れてくれたあの人を家に置いていくはめとなった。
 たしか、そこであのバカ息子に会ったんだと思う。インターホンを押しても出ない常識のないやつだ。押しても誰も出ないのであの人のポケットから鍵を出してわざわざ開けたのに、バカ息子は誰?泥棒?だってよ。笑っちゃうぜ。確かに不法侵入みたいなもんなんで、謝っといたよ、自己紹介もな。だが、そこで気付いてしまった、そのバカ息子があの人のただの息子じゃないってこと。息子宛に届いた荷物がでかでかと机に置いてあった。そこにはもちろん名前も。桐間 理依哉(キリマ リイヤ)と、息子の名前は書いてあった。あの人の名字は富端(トミハタ)だ。俺はバカ息子に愛想笑いしか出来なかった。じゃあこいつは誰の息子だ、って思ったね。けれどそこで、あの人が起きやがった。なにごともないように、ただいまなんて。俺へのお礼が先だろ、とか思ったがその日からあの人が気になってしょうがなくなった。
 あの人は絡めば絡むほど、面倒な人だったけれど、そこが良いところである気がしてくる。あの人と話すたびに、いつも仏頂面の俺も笑うことが多くなった。

「新村くん?」

 富端さんの声で、我にかえる。目の前には富端さんが、一生懸命俺を見上げていた。俺は笑いながら、頼まれていた書類を軽々と取る。富端さんは僕って小さいな、なんて落ち込みながら可愛いことを言った。俺は気にしないふりをしながら、書類を富端さんに渡す。

「あーあ、新村くんぐらいの身長が欲しいな」
「身長の前に、富端さんは頼まれた書類を短時間で処理する才能を持った方がいいと思いますけどねー」

 思った通りに言えば、富端さんは想像通りの反応を見せてくれるので、からかいがいがあるというものだ。けたけた笑う俺の背中に、なかなか痛い頭突きをしてくる。部下の背中に頭突きをする40代など、富端さんだけだと思った。
 富端さんはあぶなっかしい。基本的にちゃんとしてはいるが、どこか抜けていて目が離せなかった。一番笑った話は重要書類をシュレッダーに掛けたことだ。あれは俺も手伝ってセロハンテープで直した覚えがある。
 ほら、今だとか。ゆらゆらと富端さんの足元が気になった。気をつけて見ていると、やはり。段差もないところでつまづく。俺が慣れた手つきでスーツを引っ張ると、富端さんは恥ずかしそうにこちらを見た。

「あ、あは」
「あはじゃないですよ、あんたあほですか」

 本当は掴んでいたいはずの手を離すと、富端さんはいじけたのか早歩きで歩いていく。あーあー、あんなんじゃ誰かにぶつかんだろ、やっぱあほだわ。俺は飽きれながらも、富端さんの背中を追った。

「新村くんってなんでもできるよね。」

 富端さんは、ふ、と言い退けた。俺は咄嗟に首をふったが、後ろにいるので見えるはずもない。富端さんの隣に行って、目を見てから言った。

「なんでもってわけじゃないですけど」
「え?新村くんにも出来ないことあるのかい?」

 俺を何だと思ってんだ。ちょっと思うが、それ以上に良く思われているということに俺は気分を良くする。考えるふりをして横に顔をそらしたが、嬉しい表情を見られたくないためでもあった。俺が喜んでいるとも露知らず、富端さんが興味津々といった様子で顔を見てきたので、咳払いをひとつする。

「料理は全く駄目ですね」
「え、独り暮らしだったよね?ご飯は?」
「そんなのコンビニの弁当すよ」

 富端さんは信じられないと言った顔で俺をみた。確かに富端さんは料理が出来そうであるし、実際手作りであろう弁当を見たことがあるがかなり豪華だった覚えがある。この人が聞いたらそれは不健康だとか思いそうだ。それはそれで、俺を気にしてくれてるようで嬉しいけどな。

「なぁ新村くん。今夜、何か予定かい?」

 話が変わって、富端さんは笑いながら言う。気にしてはくれなかったようで、少々落胆しながら富端さんをみた。今日は女友達(と言っても嫌いだが)がただで飲ましてくれると言う約束があったはずだが、面倒なので断ろうとしてたところだ。俺は女共との約束は無いとした上で、首をふる。すると、富端さんは良かった、と言うのだ。

「もしよかったら、僕の家に夕御飯食べに来たらどうだろう。料理には自信があるんだ」





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