清野咲也視点

 一目でわかった。あの人は、会田さんの特別だった人なのだろうと。
 会田さんが、あの人の名前を優しげに呼んだとき、もう俺はここにはいれないと思った。あの人を妬ましく見る自分が情けなく見えたからだ。本当ならば上司を待たせるなど、俺はしない。けど、理由に畠さんしか出てこなくて、畠さんの所へ戻ってきてしまった。だが畠さんもひまではない。やはり畠さんの部屋には、誰もいなかった。
 実は言うと、今までの時間、話す内容がなく、畠さんに恋の話をしようと言われた。もちろん俺は会田さんしか浮かばないので、名前は伏せて会田さんのことを相談していたのである。すぐに帰ってくるとおもうが、お世話になったので待つなんて厚かましいことは出来なかった。
 俺は黙って部屋を出る。このまま会田さんの所に帰るしかないだろう。気が進まないが、逃げてきたのは感じが悪かったし。すると前から声がした。

「畠さんならロビーに居た」

 顔をあげてみると、そこには会田さんが息をきらして俺の前にいる。返事も聞かずに飛び出してきたというのに、急いでわざわざ言いにきてくれるなんて。俺は自分の子供さが嫌になる。

「ごめん、なさい」
「いや、別に気にす…」
「畠さんと話があるなんて嘘です」

 怒る会田さんを見たくなくて顔を見ないように言えば、会田さんは困ったような声をあげた。嘘なんて嫌われるに決まっている。俺は覚悟していると、会田さんはなんともいえない顔をする。俺は意を消して、会田さんに本音を言うことにした。

「さっき、あの女の人と会田さんが話してるのみたくなかったんです。だから、うそついて畠さんのところにいくって。ごめんなさい…」

 会田さんのあきれた顔や、怒る顔なんて見たくないので、俺は必死に目をつむる。だが、会田さんは何も言ってはくれなかった。きっと呆れてものも言えないと言ったところか。嘘をつけばよかったと、心の悪魔が俺を嘲笑った。
(ああ、逃げ出したい!)
 走りたいと疼く足を何度も叩いて、このままではキリがないと俺は会田さんを見る。俺が会田さんの顔を見なければはじまらないからだ。だが、会田さんは、予想外に、顔を赤らめていた。

「会田さ、」
「おれもお前と井藤田が話しているのを見るのは妬ける。さっきも畠さん優先にされてかなしかった」

 俺には、会田さんの言葉の意味が、遅れてやってくる。ごめん、とだけ続ける会田さんが可愛く見えてきた。
(もしかして、会田さんも、俺を…)

「会田さん、それって…」「…なさけない、可愛い後輩を取られて嫉妬したんだ」

 俺は言いかけた言葉を飲み込む。危ない、会田さんが気を持たせるようなことを言うので、まさかの両思いかと思ってしまった。
 そうだ、世の中そんな上手くいかないだろう。友達でも嫉妬はする。嫉妬したからといって、全て恋愛感情好きだからではない。

「…いや、有難いです」

 それでも嬉しく思ってしまうのは、会田さんから後輩としてでも可愛がられたいから。恋愛感情でなくても、この人の感情を自分に向けさせたかった。
 なんて、醜いのだろう。

「ふ、無理するな」
「し、してないです! 会田さんこそ、いやならいってください」
「ああ、いやになったらな。」

 微笑む会田さんの隣で、俺は笑う。両思いになれなくても、隣にいられれば良いと思えるようになった自分は大人になったのか。
 それとも、

「会田さんが、嫌になっても好きです」

 聞こえないように、俺は会田さんを見ながら呟いた。


好きという不思議
(悲しくても苦しくても隣にいたいのです。)



(清野に彼女ができたらかなしいだろうな、嫁にやるかんじか…)
(え?)
(いや、なんでもない)






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