下品。


「おい、釜播。なんだこの点数は!」

 うざい国語の授業。この前したテスト返しで、一人ずつ返されていく。俺の名前が呼ばれて教師から出されたテストは、見事に25点。まあキリがいいんじゃないか、と思っていると先生の肩はふるふると震えた。

「えー俺にはいい点数だろー。4分の1の点数!」
「よくない! 次、加山…」

 うう、くそったれ…!
 俺は悔しいのを隠せないで席にすわると、周りの席の天使達(に見えるかわいい女の子達)が俺のところに来てくれる。

「気にしなくても大丈夫だよー」
「でもさぁ…」
「気にしてんのー? かわいいー」

 君たちの方がかわいいぜ…! 俺は鼻の下が伸びそうになるのを堪えながら、結構なキメ顔でお礼を言うと、女の子達は頬を赤らめた。
 まあ今日はこの子達を落とせたからいいかと納得して、テストの間違ったところを直していると、国語の教師、坂田は何故か誇らしげにあいつの名前をよぶ。

「今回も満点だな、よくやった」
「…ありがとうございます」

 元気の無さそうな声、うんざりしていると言った方が正しいだろうか。世間瀬は相変わらず、この教師に好かれてるらしい。生徒会に入れられなかっただけましだが、まだまだ気に入っているようだ。
 坂田は世間瀬の肩を抱くと、俺の方を指指してきた。

「ほらっ、世間瀬を見習え」
「へーい」

 言われると分かっていた俺が適当に返事をすると、世間瀬を大切なもののように扱いながら席に戻し、普通の授業へと戻る。
 世間瀬の後ろの席の十山が世間瀬をすごーい、なんて誉めていた。世間瀬も先生に誉められたときとは違い、素直に嬉しそうに笑っている。本当きもちわるいくらい仲良いな。若干引き気味になりながら見ていると、前の席の女の子が顔を歪めた。

「なーんか世間瀬くんってすかしてるよね」

 わかるー、その隣の子も面白そうに会話に入ってくる。俺はそうくるか、びっくりした。確かに世間瀬は無言だが、話しかけられれば愛想笑いするし、決して悪い奴ではない。勉強だって誉められたいわけではなく、根が真面目だから勉強しているのだ。なにもしらないくせに言うなんて。
 そこで俺は我に返る。かわいいはずの盛り上がる二人を、俺は何故か冷ややかな目で見ていた。気にくわない世間瀬のことを言われておもしろいはずなのに、腹の中は煮えくり返っている。俺は何を彼女達にいってしまうか分からないので、寝たふりをすることにした。
 暫くすれば授業は無事終わり、黙っていたら世間瀬は気にくわない野郎、で片付いたので安心する。次は昼休みなので弁当を用意しようとすると、目の前に誰か来た。顔をあげればまだ帰ってなかったのか、坂田が顔を強張らせている。
 言いたいことでもあるのかと、バカにしたように鼻を鳴らして見れば、嫌そうな顔をした世間瀬が坂田の隣にいた。

「なっなんだよ」
「お前はこのままでは赤点だ。だから、明日ちょっとしたテストをする。いい点取ったら見逃そう。」
「はぁ!?」
「それで…いい点が取れるように世間瀬からじっくり教えて貰え。いいな?」

 俺はパニックになる。赤点はさすがにやばい、けどなんでよりにもよって世間瀬に教わらなくちゃならないんだ。他に頭のいい奴を探したが、俺の仲が良いやつらで頭のいいやつはいない。半分諦めなくてはならなかった。

「なんで、世間瀬なんだよ!」
「世間瀬は今回の古典は得意分野なんだ。俺は今日忙しいし…世間瀬頼めるな?」
「…はい」

 坂田はまるで世間瀬を全て知っているようにいう。そんな坂田を気持ち悪く思いながら世間瀬を見ると、一瞬すっっごく嫌そうな顔をした。だが、真面目な世間瀬のことだ、先生からの頼み事は断れないのであろう。なんだか坂田が妙に腹がたったが、赤点を挽回できる機会がやってきたのだ、仕方なく頷くと坂田は満足そうに微笑んだ。


‐‐‐‐‐‐

「じゃあはじめようか」

 放課後、向かい合わせに付けた席に世間瀬は座って教科書を開く。俺は納得していないが、世間瀬の前に座った。だが、一つだけ気になることがある。

「おい、十山、なんでお前がいるんだ…」
「えっ、ああ。雄ちゃんのこと待ってるんだー」
「いや、知ってるけど、部活あるだろ。てかお前なんで最近部活こねーんだ!」
「あ、ははは。ごめんごめーん」

 十山は苦笑いしながら、世間瀬の隣に席を持ってきて座った。どこまで一緒なんだと思うが、世間瀬も気にせずに勉強を始めようとしているので突っ込むのは止めにする。気にしている俺がばかみたいだ…。
 勉強が始まると、やはり先生が誉めるだけあった。分かりやすい説明と、ご丁寧に表まで作ってくれやがる。お前が先生になった方がいいのではないかというくらいの丁寧さ。
 こいつ無駄に字きれいだな。
 俺はごっつい体に似合わず、綺麗な字を淡々と書いていく世間瀬の手に夢中になっていた。

「あ、活用は絶対覚えてね」
「おお」
「あ、上一段活用のこれはすわるとかの意味だから」
「おお」
「で、ここは…」
「おお」
「…釜播くん、ちゃんと話きいてるの?」
「おお」
「聞いていないだろう」

 世間瀬はあきれたようにこちらをみた。俺はバレたと思うが、元々気付いていたらしい。世間瀬は俺にプリントを渡した。

「んだ、これ」
「重要点は書いたから。それを勉強すればいい点取れるよ。あとこれ、テスト前に先生から貰ったプリント。釜播くんやってみな、見直しになるよ。」

 面倒見がいいというか、用意周到というか。俺は世間瀬に頭が上がらない。そのプリントを受け取り、言われた通りに見直ししていると、世間瀬は眼鏡を取り目元をマッサージしはじめた。おじいさんか、お前は。思ったが勉強に付き合ってもらったので、なにも言わないでおく。
 よし、ここで話題を変えて世間瀬の気分転換しよう! 俺は人差し指を立てながら世間瀬をみた。

「なぁなぁ! お前みたいな優等生でもオナるの?」
「は、はあ?」

 世間瀬はよほど驚いたのか、眼鏡を机に落としてしまう。やっぱりこいつこういうことには免疫ねーな。心のなかで笑いながら、世間瀬をみた。

「そりゃオナるよなー、人間だし」
「っ、止めてくれ。お前の頭にははしたないことしかないのか!」
「おいおい、男はみんなこんなだぜ? 俺は本能に正直なだけだ」
「ばかか…!」

 やっぱりこいつをからかうのは面白い。いちいち本気で返す世間瀬に、俺はけたけた笑った。
 だがせっかく楽しんでいたのに、俺と世間瀬の間をやつが遮る。にこにこしているが、目付きがこわかった。

「十山…」
「ちょっとー、雄ちゃんにセクハラしないでくれよな!」

 言葉使いは優しいのに、どこか棘がある。こいつは世間瀬の彼氏張りに、世間瀬に何か言えば、怒るのだ。ややこしいな、と思いながらもはっと気付く。

「だってよー、十山も気にならねぇ? 世間瀬のおかず」
「なっ…」
「別にー、気にならないぞ。」
「だって、世間瀬女に興味ねーじゃん。あっ、もしかして十山とかいわねえよな」

 そこで十山が反応した。引っ掛かったと思う。やはり行き過ぎた友情なこいつらのこと、十山も自分が関わっていると思えば話に乗るだろう。
 今まで恐ろしい笑顔だった十山が嘘かのように、十山は優しい笑顔を掲げて世間瀬をみた。

「あはは、そうだったら嬉しいのになー。雄ちゃん、どうなの?」

 …と、十山、お前やっぱりおかしい。
 食い付くとは知っていたが、あくまでからかうつもりでいた。まさか嬉しいとまで言うとは。おかしい、こいつ、おかしい。
 天然な十山が怖くなりながらも、世間瀬は十山に聞かれたら答えないわけにはいかないだろうと期待の目で世間瀬を見た。世間瀬は十山の素朴な疑問と、俺の楽しそうな答え待ちに耐えられなくなったのか、真っ赤になりながら俺を睨む。

「釜播くん、お前本当にしね。」
「え」
「陸に気を使わせたうえに、下ネタ言わせるなんて」
「えええ、俺かよ! どう考えても十山気つかってねーだろ!」
「使ってるよ、お前はばかだから気づかないだけだろう!」
「お前こそ馬鹿だろ! こいつバスケ部で普通に下ネタいって…」
「バカを言うな! いままで俺は陸が下ネタ言ったのみたことないよ!」

 どうやら世間瀬の逆鱗に触れたらしい。おれは胸ぐらを捕まれる。なにより力が強すぎるし、迫力のある顔が怖かった。きっと俺は殺されると思いながら、必死で世間瀬の腕を押し返していると、十山がのんきに言い出す。

「そうだぞー、雄ちゃん。俺だって男だから下ネタくらい言うからな。男は皆、狼なんだ!」

 十山が自慢気に言うと、世間瀬が俺の胸ぐらを掴む力が弱まれた。その隙に手を取ると、世間瀬はショックのせいか固まっていて俺を捕まえる余裕もないらしい。助かったと十山にお礼を言おうとすると、世間瀬は口もとを押さえていた。
 おいおい、そんなにショックなのか。たしかに世間瀬は十山を美化していたけども!
 すこし心配しながら世間瀬の様子をうかがっていると、世間瀬は顔をあげる。

「り、陸が狼…! かわいい」

 美化はまだ続いていた。世間瀬は心から思っているように、十山を見ながら普段見せない完璧な笑顔を顔に乗せ、十山の頭を撫でる。十山は猫が喉をならすように目をほそめ、世間瀬の手にすりついた。
 なによりもかっこいい俺様が、十山に負けてムカつくので俺は口を挟む。

「な! そんなことを言うならおれも狼だぞ、一緒だろ」
「ナニソレキモイ」

 じ、自滅…。
 機械のように心無い言葉を言われて傷つく俺そっちのけで、二人は椅子を近づけていちゃいちゃしはじめた。

「ふふ、雄ちゃん、がおー! 喰っちゃうぞ!」
「…仕方ないな、腕ならあげてもいいよ」
「うーん、そういうのじゃないけど、まあいっか。今日のおかずにするからな!」
「うん、どうぞ」

 遠目から見たら凄く微笑ましい画だが、十山の言葉に注目してほしい。
 え、ちょ、今の完全下ネタじゃん…。
 俺は思いながらも、また暴言を吐かれたら立ち直れないし、二人の邪魔をしたら怖いので、二人を見ないように世間瀬から貰ったプリントを眺めた。

 あーあー! 俺明日百点だろうよ! くそったれ!





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