直接関係はありませんが、君の魅力を知れた話で浩と海飛が仲良くなった後の話です


 海飛って本当に俺のことすきだな。暑苦しい中庭のベンチに腰を掛けながら、二人きり。昼食をとっている時に俺が言えば、海飛は何も言わずに俯くだけであった。俺はふざけていったはずなのに、そんな反応をされてどうすればいいのか分からず、ただ海飛から奪ったジュースを飲んだ。


 よく考えてみれば、海飛は俺の言うことは聞いてくれる。そんな酷い命令はしないが、例えばパン買ってこい、俺が海飛の教科書使うから今日は海飛は忘れたことにしろ、傘を貸せ(他の話を参照)、午前2時暇だからお前の家止めろ、など。下僕みたいにすぐには言うことは聞かないが、もんくを言いつつも最終的には折れる。ほかのやつらは海飛を可哀想に見るが、別にそこまでひでえこと言ってねーだろ。でもたしかにこんな扱い受けたら、俺ならボコして離れていくだろう。海飛は離れるどころか、近付いてくる。今、二人で昼食してるのも海飛がたまには、などと言い出したからであった。
 だから、言ってみた。
 海飛って本当に俺のことすきだな、って。
 そんな訳ねーだろ、とか、自意識過剰か、とか返ってくると思っていたのに無言。知ってるか、無言の肯定って。浩が言ってた。
 俺は考えた末、もう一度声をかけることにする。

「あのよ、おま…」
「ご、ごめん、急用思い出したわ!」

 いきなり立ち上がり、隣にいたはずの海飛は3秒もたたずに脱兎のごとく逃げて行った。俺は海飛の肩におこうとしていたが、逃げられたために行き場を失った手をベンチに置くと、海飛が置いていったジュースを飲み干す。
 あのやろう、今までどんな用でも俺だったのに。
 思いながらも、恥ずかしかったのだろうと仕方なく許してやる。と、言うより前から好みの女が来て、目で追っていたら海飛のことは忘れていた。

 だが次の日になっても、海飛はこちらには一切寄ってこないで、浩にべったりになっていた。そんなに俺といるのが恥ずかしいのか、意外と照れ屋? 気持ち悪い。俺は他の女と話ながら、視線をそらした。
 気になるのは仕方ない。海飛が話しているのは、俺が大好きな浩だ。好きな奴と友達が話していて気にならない奴はいると思うが、俺は気になるんだ。だいたい、なんで浩と話すんだよ。浩は俺のだっつーの!
 だんだんムカムカしてきた俺は、相手の会話すら耳に入ってこなくなる。見えるのは浩と海飛だけ。海飛の野郎、楽しそうだな。

「龍太」
「ぅあ?」
「話聞いてないでしょ?」

 確信をつかれたが、俺は話をそらすと、女は呆れてその場から去った。好都合だ、俺は椅子に座ると寝たふりをしながら横目で二人を見る。大丈夫だ、大丈夫。海飛は俺の命令、聞いてくれるから。
 俺はメールを打った。相手は海飛で、絵文字も付けずに浩と話すなと言う内容。近くにいないので着信音は聞こえなかったが、どうやら鳴ったようで、海飛は携帯を開いた。そして遠目で見ても分かるくらい顔を歪めて、一度こちらを見る。するとしばらくして、海飛は不自然に浩から離れた。どうやら、俺の言うことを聞いてくれたようだ。だが、せめてもの反抗と言うことで顔を歪めたのだろう。だがそんなことをしておきながら、やっぱり俺の事を嫌えないと思うと、なんだか海飛が可愛く思えた。
 だが、そう喜んでいたのもつかの間。次は浩から海飛に近付いていった。海飛は苦笑いしながら離れようとするが、浩が海飛の腕を掴む。
 なんで苦笑いしてんだよ。笑いを含めるな。睨めよ。
 何かを話ながら、次には海飛が泣きそうな顔をした。そして浩は海飛の表情に気づくと、頭を撫でる。そして海飛は、苦笑いではなく優しく浩に笑いかけた。
 なんだ、この気持ち。ムカつく、腹立つ。きっと浩と話す海飛がムカつくんだ、あんな顔で浩に媚を売る海飛が腹立つんだ、きっと、きっと。
 気付いたら浩と目が合っていた。浩は海飛に一度目配りすると、ずかずかと近寄って来て俺の前の席に座る。

「そんな怖い顔でこっちを睨むな。」

 俺の眉間に指でぐりぐりと押すと、浩が言いながら笑った。睨んだつもりはない、俺はただ見ていただけなのに。俺が海飛の方を見ると、海飛は俺に笑いかけると自分の席に戻った。たぶん、浩と話せてよかったな、とでも言いたいのであろう。
 なんでお前はこっちに来ない? 浩が来たら普通来るだろ。俺はただ海飛を目で追いかけた。

「なあ、浩」
「どうした」
「海飛と仲良くなったの?」

 拗ねたように言うと、浩は困った顔でこちらを見る。隠さないといけないことなのか。そう一度思うと止まらない、あれやこれやとネガティブな思考が頭を巡らす。

「まあたしかに仲良くなった、んじゃないか。」

 なんだ、その含んだ言い方は!
 俺ははっきり言わない浩をにらみつければ、浩は驚いた顔をした。なんで驚くのか。俺だって浩を睨むことくらいするんだ。
 だが、浩が驚いたのはどうやら違うことらしい。浩は俺の頭を海飛にしたように撫でる。

「なっ、なんだよ」
「どっちにも嫉妬をするなんて、お前の嫉妬心は忙しいな」

 どっちにも嫉妬? 俺は浩が海飛と話すのが嫌だっただけであって、海飛が誰と話そうと関係ない。よってどっちにも、と言うのは間違っている。反論するために口を開こうとすれば、浩はからかったように笑いながらどこかを指差した。

「お前の友達だけある。人気者だ」

 指を差した先には他のクラスの奴と話す海飛が居た。なんだ、また誰かとはなしてんのか。てかそいつ誰だよ、俺そんなやつしらねえ。しかもそんなへらへら笑うな。俺、今日一回もそんな顔されてねーぞ。いらいらいら。
 俺は無意識に机を叩くと、一緒のタイミングで浩が吹き出した。浩を見れば、口元に手を当てながらくつくつと笑っている。

「それでも嫉妬していないというか?」

 考えてみろ、と浩が立ち上がって去っていった。浩は人の気持ちに鋭い。だからこそ今の俺の気持ちを気づかれたのは恥ずかしくかった。
 たしかに浩を取られた気がしていやだった。だが、どうやら海飛がとられたのもいやだったみたいだ。浩に言われて気づくなんて。
 一人残された机で海飛を見る。海飛はまだ笑いながら話していた。

「海飛」

 気付いた時には声に出していた気がする。しかも離れている海飛に聞こえるくらいの声。海飛は俺の声に反応し、ゆっくりと振り向いた。
 そしてすぐに嬉しそうな顔をして、海飛はすぐに俺の所に来ようとしたが、海飛の友人によって止められる。まるで俺が呼んだのは聞こえねぇって顔をしながら友人は海飛に何かを話していた。海飛もこちらを気にしつつも、流されたのか話を続ける。
 今日俺を避けやがったのも勘にさわったが、今のは流石に腹がたった。海飛が来ないなら俺が行ってやるまでだ、俺は自分から海飛に近寄ることにする。だが、近付くにつれて聞こえてくる二人の会話に俺はおもわず立ち止まった。

「女いんだぜ? 来れば乗り気になるって!」
「いや、だから、今日調子悪くて…」
「いーじゃねーか、じゃあ今日の放課後、教室に迎えくるから」
「えー、うーん」

 話を聞いてれば勝手に何をほざいてんだこいつ。海飛嫌がってんだろ、そんな苦笑いしねーぞ、普通。わかってねぇなら海飛の友達止めろ。しかも流されそうになってんじゃねぇ、海飛。
 俺は仕方ない、と無理やり誘っている海飛の友人の前に出ると、黙って上から下まで見てやった。そいつは俺の目に怯み、なんだ、と聞いてきた。なんだじゃねーよ。

「こいつは今日、俺と約束してっからよ。あきらめて」

 ぶちギレそうになったが、喧嘩するよりは笑って解決。まあ、海飛が他の友達と関係が崩れようが俺にはどうでもいいが、後から海飛から言われたら面倒なので優しくいってやる。すると、友人はバツの悪そうな顔をしてどこかへ行った。最初から折れろ、ばかやろう。
 心のなかで中指を立てていると、後ろから肩を叩かれる。振り向くと、海飛が口先をとがらせながら、俺を見ていた。

「今日約束なんかしてねーだろ」
「お前が調子悪いくせにはっきり断れねーから断ってやったんだろ」
「べっつに! 女いるからいいし!」
「は? 女だってどうせぶっさいくに決まってるしな!」

 お約束な口喧嘩が始まる。俺が助けてやったってのに、海飛は恩知らずな野郎だ。俺が怒りながら席に座ると、海飛は俺のつくえに座る。なに座ってんだ、と尻を叩くと俺を見た。
 だが、見たまま動かない。やっぱり今日は変だと俺は勢い良く机に肘をつきながら、海飛を睨んだ。

「あんな奴、友達やめちまえよ」
「…お前そんな怒ってっけど、お前の方が普段の扱いひでーからな」
「それはいいんだよ、俺だから」
「ん、だよそれ」

 怒ったように腕を組ながら言って俺をみるが、俺はふざけたふうに目をマッサージしながら海飛を見る。あくまでふうだ、本当はふざけていない、今日は人を睨みすぎた。まあどれもこれも海飛のせいだが。
 そういえば、海飛と言えば。と、いままで引っ掛かっていたことを聞いてみることにする。

「なあ海飛、なんで今日俺を避けてんだ?」

 がたん、と机が鳴った。海飛が掛けていた足が落ちたからだ。うるさい音たてやがって、俺は半分あきれながら海飛の足をとろうと海飛を見ると、海飛はそっぽを向いている。

「なんのこと」
「だから、そういう態度だよ。」
「いっみわかんね」
「こっちこそ。あ、そういえば昨日俺がお前に言ってからだよな、ほらお前は俺をー…」

 本当にすきだなって。そう続けようとしたのに、それは海飛の手によって阻止される。
 眉が下がりしわくちゃで困った顔で、そしてなにより恥ずかしそうに。なんでそんな顔するのかわからない。もしかして昨日俺が言ったのを聞いて俯いていた時も、そんな顔をしていたのか。

「な、んだよ」
「もういいよ、分かった、うん好きだよ、それで十分か」

 勘弁してくれ、とでも言いたそうに海飛は言う。なんか俺が虐めたように、海飛はくるしそうに言った。
 もしかして避けていたのもこの事を聞かれたくなかったからか。そう思うと余程聞かれたくなかったことがわかる。

「そっか、それでかあはは。」
「うっせー! なにわらってんだあほ」
「いや乙女だなって」
「乙女じゃねー!」

 目を泳がせながら一生懸命訴えるが、それも照れ方が女みたいでうざったい。だが、はっきり好きと言われて嫌な思いをする奴はいない。正直言うと嬉しかったと言うか。

「海飛」
「んぁ?」
「はっ、乙女にしては良く言ったな。俺もお前を最高の友達としてちょー好きだぜ」

 なんてな。言うと、海飛は嫌そうな顔をしようとするが、嬉しいのが先に顔に出てしまっている。自分でも顔に出てるのがわかるらしい。それを悔しがってもいる。

「素直に喜べ、ばーか」

 言えば海飛は考える暇もないくらいすぐに、嬉しそうに笑うから、こいつは俺のこと本当にすきなんだなあと改めて思う。

 でも本当にすきなのはどっちなのだろうな。俺は最後まで自分の気持ちには気づかないふりをした。
 だから海飛、はっきりしない俺のわがままを、まだ、きいていてくれないか。

「もう、俺を避けるなんてことすんなよ」

 海飛のシャツを掴みながら、聞こえないくらいの声で俺は我が儘を呟いた。






*大好きなリュタロさんへ贈り物




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