もう夕日が出てきた放課後。出ようとしていた教室に押し込められた海飛が見た先にはこの前別れたばかりの女子と、その友達3人が海飛を睨み付けていた。何故海飛がこのように囲まれているかというと、元彼女だった女子をフッたせいであった。彼女は泣きながら海飛の胸を叩く。

「なんでいきなり別れるなんて言ったの? 理由くらい言えよ!」

 相変わらず口は悪いな、と海飛は自分を叩く彼女見ながら思った。
 彼女との別れを切り出したのは海飛だ。別に嫌いになったわけではない。元々そこまで好きではなかったので、気持ちが薄れたとも言わない。ただ、彼女は海飛以外の男とも関係を持っていたからだ。そのことは彼女から直接言われたことではない。たまたま龍太の友達が彼女と関係を持っていた相手だっただけで、そうでなければいつまでも気付かないままだった。自分は好きではないが、騙されたことが許せなかった。自分勝手ではあるが、愛さなかった分、別れるときは彼女が悪いとは言わず、別れた。

「いや、理由なんかねーよ」
「っ、海飛、まじ酷い! どーせ新しい女でもできたんでしょ! 女たらし!」

 それなのに、この様だ、と少しでも彼女を哀れんだ自分が可哀想に思える。
 女たらし、否定はしない。女性には優しくしようとは思うし、少なからず下心は持っている。だが、お前には言われたくなかった。
 海飛は目の前にある面倒事を早く片付けたいがために、口を開く。

「お前、浮気してたくせによく言えるな」

 あーあ、言わないようにしてたのに。海飛は彼女が言われて驚いた顔をしたのを見て、冷静にそう思う。だが、まわりのなんの関係もない3人が海飛の胸ぐらを掴んだ。

「最低! 自分が追い込まれたら、嘘つくんだ! 本当はあんたが浮気してたんじゃない」

 海飛は思わず笑ってしまいそうになる。先程驚いて声も出せなくなっていた彼女を見ていたはずだろう。ああ、涙ぐましい友情だね。海飛は呆れてものも言えず、友達の言葉に頷く彼女を見た。
 これだから人って信じれないよ。
 彼女がそろそろ手をあげるだろうと、ただいつあげられるかわからない手を見つめる。すると、やはりぴくりと動いた。彼女がそれで済むならばいいだろう、たしかに今さら浮気の話を持ち込んだ自分も悪い。海飛は思いながら彼女が自分の頬を叩くのを、目を瞑りながら待つ。すると、ゆらりと大きな影が、まぶたの裏で揺れた。

「嘘をついてるのはどっちだ。まあやはり浮気するだけの性格ではあるな。」

 低い声が耳を掠める。見上げると、そこには浩がいて、海飛を叩こうと彼女が手を持っていた。浩が彼女の手を優しく離したのを見て、黙って後ろにいた女子が浩を睨む。

「いきなり出てきてなんなの! あんたには関係ないじゃん」
「お前も大概関係ないだろう。しかも大人数で来て、恥ずかしくないのか。あとなんの証拠もなしに嘘と決めつけて、人の胸ぐら掴むとは酷く軽率な行動だな」

 正論を淡々とした口調で言う浩に彼女達は圧倒されてしまい、言葉をつまらせた。浩は友達に向けていた目を、ひょいと彼女に向けると眉間にしわをよせながら口を開く。

「まだ言い逃れをするのなら、今度証拠を持ってきてやるが、どうする?」

 そう述べる浩に、彼女は首をふることしかできなかった。それに安心したやように頷くと、浩は海飛の二の腕を掴み、行くぞ、と小さく言う。海飛がなにかを言うひまもなく、浩は海飛を持ち、その場から去った。海飛は浩の大きな背中をただ、見つめているだけしかできないのである。

 学校の校門を出た所で、浩は海飛を離した。海飛は今までなにが起きたか理解していなかったが、そこで浩に助けられたと自覚する。海飛はそのまま一人で帰ろうとする浩を捕まえた。

「ありがとな! ちょー助かった!」
「…そうか、良かった」

 はい、会話終了。
 海飛は苦笑いしながら考える。元々話す仲ではないし、二人きりなどもってのほかな海飛と浩である。今の会話が精一杯だ。それでも、助けてくれた浩と話を続けたくて、海飛は浩の裾を引っ張る。

「あのさ、なんであの女がうそつきって分かったの? たしかに証拠もあるけど。俺、戸河井に恋愛話なんかしたことねーしさ…」

 疑問といえば疑問だ。浩の口調からしてみれば全て知っているような言い方だったが、今まで海飛が浩に浮気されたなどともらした覚えがない。もしかしたら龍太であるかと考えたが、龍太と浩が話してるときに自分の話が出るとは思えない。海飛が首をかしげれば、浩は目を細めた。

「お前が嘘ついてるようには見えなかった」

 海飛は傾げたまま動けなくなる。もしかして、何の根拠もないそんな考えで彼女らを説教したのか。

「それだけ?」
「ああ」
「…そっか」

 何もいえなくなった。あまり分からなかった浩ではあるが、今回の出来事で少し分かった。バカだ。
 そう思いながらも、海飛はうれしかった。今まで海飛の性格上、やってもいないこともやったと決めつけられることが多かった。現に海飛は浮気をしたなどと疑われ、前にもそんな別れ方をしたことは少なくはない。だが一度もそんなことをしたことがないのだ。逆にその行動は、海飛を絶望させるには簡単だった。

「なー俺な」
「なんだ?」
「親がさ、どっちとも浮気してんの」

 浩は一歩後ろを歩く海飛を見る。海飛はなにごともないように、浩を見返した。浩の目は何をいっているんだ、という顔をしていたが海飛は笑顔のまま続ける。

「子供の頃からそんなばからしいのばっか見てきて、本当気持ち悪くて。そういうのする奴だいっきらいでさ。まあ俺自身、たらしだけど浮気はしたことねーわけで」
「…ああ」
「だからあの女とか、あの友達? とかに俺が浮気してるんじゃって言われて、あんな奴等にだけど正直ショックだった。やっぱ皆イメージとかで決めんだなって。しかも俺そんな気持ち悪いイメージなんだって。だけど戸河井はちがかったじゃん? だからさ、めちゃくちゃ嬉しかった」

 ありがとう。
 頬を赤らめて、歯をむき出しにして海飛は浩に心から礼を言っていた。浩はそんな海飛を見て、微かだが口許に笑みを込める。

「そうか、なら、よかった」

 浩は言いながら、海飛の頭を撫でた。身長的にも春と似ていて、心地よい。昔はよく春を撫でていたな、と思い出しながら、春とは違い、細くて短い茶色の髪を撫でて、目を細めた。

「お前と、初めてしっかり話したが、話せてよかった。やはり俺も少なからずとも勝手にイメージをつくっていたが、それよりもお前はいいやつだったからな」

 満足したのか、ぽんぽん、と二回だけ撫でると浩は手を退ける。そしてなにごともなかったかのように、海飛に背を向けた。
 海飛は、こんな優しい表情の浩を見たことはないし、ここまでかっこいい人だとは思っていなかったのでガラリと印象が崩れた。それは良い方にである。
 …これじゃ、モテるよなぁ。

「戸河井、俺を弟子にしてくれない?」
「は?」

 不意でもきゅん、としてしまった自分はまちがっていないと思った。






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