会田心視点

「なんだか修学旅行みたいですねー!」

 清野は枕を抱えながら、俺を見てそう言った。たしかに男三人で並べばそうなるな、と納得する。
 井島田は寝る場所を決めるとき、俺にベッドを譲ってくれた。俺は先輩だし、井島田の対応は間違ってはいない。だが俺はなんだか嫌な気がした。いつもならば先輩など関係なく俺のベッドなんですから俺が寝ますなんて言い出しそうな井島田が、こうも素直にベッドを差し出すなんて。
 一応寝てみようとしたが、そこで気づいた。俺がベッドを占領することで、必然的に床で寝るのは井島田と清野だ。井島田はなにかと清野と居たがる。勝手にしていればいいが、なんだかもやもやした。
 …というわけで俺も床に寝てみた。

「ちっ、狭い」
「いいじゃん、あったかいだろ」
「うるさい、暑苦しい。あーあ、誰かさんがベッド行かないせいですね。」
「…すまん」

 さすがにひとつの布団に男三人はきついようだ。
(ていうか俺、もう扱いが先輩じゃない、体半分出てるぞ。)
 真ん中には清野がはしゃいでいるが、俺には到底はしゃげる状態ではなかった。やっぱりベッド戻ろうか、井島田と清野が仲良しだろうと微笑ましいし。あとさっきから誰かの(と言っても一人しかいないが)足の指で器用につねられてるし。
 立ち上がろうとすると、清野が俺のシャツをつかんだ。

「トイレですか?」
「いや、ベッドに行こうかと。真ん中のお前は、特につらいだろう?」

 気をきかせたように返せば、清野は何故か嫌そうな顔をする。
(何故だ、俺は気を使ったんだぞ。まあ半分自分のためだったりはするけれども。)
 清野はそうですか、と気を落としたように言うと俺のシャツを離す。少し気になるがいそいそとベッドに潜り込んだ。
 しばらくして、話し声が消える。もともと騒がしくない井島田はともかく、さすがの清野も明日は出勤であるし今日の残業でつかれたのだろう。寝息が微かに聞こえる。
 今日はつかれた、気がする。清野と井島田が風呂に入るだとか、一緒に寝るだとか俺が気にするものではないのに気を使い、そう思うと無駄な体力をつかったものだ。明日のために早く寝よう。寝返りをうつと、下のやつがもぞもぞと動き出した。

「っひ、井島田! なに尻触ってんだよ」
「んー、いいかんじの肉。触りやすい」
「なにいっ、ちょ、やめ、さっきといいなんなの!」

 俺が寝ていると思っているのか、二人は静かに話してはいるのだが、丸聞こえである。さっき、とはお風呂のことか。おふろでもそんなことをしてくれたのか、尻を触るみたいなことをしたのか、裸で。…不健全だぞ。
 だがこれも井島田でいう同期の付き合いというならば、俺のような年寄りが口出ししていいものではない。気付かないふりをして、そのままでいると、どちらかはわからないが息遣いが荒いのがわかる。

「い、とうだ、ほんと」
「ん? なに」
「やめ、」

 マテマテマテ、たしかに、たしかにここは井島田の家だし何しようが勝手だし、二人は仲が良いし俺がどうこう言えた問題ではない。だが、限度がある。なにより、気にくわない…。
 ばさ、と大きなおとをたてて俺は起き上がった。二人ともこちらをみる、井島田に関してはさもうっとおしそうに。
(うん、やっぱり待て。)
 なんで、井島田、清野の耳噛んでるんだ。

「…なんすか。」
「なん、みみ、噛んでるんだ」
「ああ、いつもですよ」
「っ、うそつくなよぉ! さっきだけだろ」

 俺が話しかけたことで噛むのを止めた井島田を、清野は殴ろうとして起き上がるが井島田は簡単にそれを避けて清野の頭にチョップ入れる。清野は悔しそうな顔をして、井島田は笑うだけだ。
(なんだ、この甘い雰囲気は。いらいらする。)
 俺は井島田の腕を持つと、井島田は驚いた顔をしたが構わずベッドへと放り投げた。

「家の主は、一番高いところで寝るべきだ」

 有無を言わせないトーンで言うと、何か言いそうだったが井島田は仕方ないという顔で布団に入り込む。おやすみなさい、という不満足そうな声に清野がおやすみと返した。俺も返して寝ようと思ったのだが、なかなか布団に入れない。
 井島田から清野の隣を奪ったのも気が引けるし、何よりも二人だけで清野と一緒の布団というのがはずかしい。
(なんだ、恥ずかしいって。)
 清野は気にせずに目を閉じているし、俺は片足をいれただけで止まっていた。すると、腕を誰かに捕まれる。

「寝ないんですか?」

 清野だ。清野は不安げに俺を覗きこみながら聞いた。いや寝る、思いながらなにも言わないで首をふると、清野は顔を綻ばせる。

「風邪引きますよ、ほら」

 ばさ、と音をたてて、清野は両手を広げながら布団を広げた。

(それが、きゅんと来たなんて。)

「………」
「…あ、会田さん?」
「なんだ」
「半分も入ってませんよ」
「暑いんだ」
「そうですか」

 ならいいです、と背中の向こうで清野が笑う。きっと落ち込んだ顔をしているだろう。それでも、そちらを向いてやれない。


 きっと、暗くてもわかるくらい、俺の顔は赤いだろうから。




不思議に気持ちに困りました
(この気持ちはなんと呼ぶのでしょう)



(会田サンもセクハラしないようにー)
(…しない)
(………(むっつりめ))





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