清野咲也視点


 会田さんの家に着くと、簡単に部屋に通してくれた。会田さんの部屋は綺麗に片付けられて、テーブルとソファーがあり、目の前にテレビ。テーブルの下には小さなカーペットが敷いてあり、奥の部屋は扉が半分閉まっていてあまり見えないが、本棚とベッドが見えた。至って普通の部屋だが、会田さんの部屋だと思うとドキドキする。俺は通されたソファーに座ると、会田さんはカレーを温めに行った。俺も行こうとしたが会田さんは止めたので、大人しくいることにする。
 あまり物色はしてはいけないと思うのだが、やっぱり、見てしまうのは好きなひとの部屋だからだと思う。

「ほら、出来たぞ」

 ふんわり、カレーの匂いがしたかと思えば、目の前にカレーライスが置かれた。丁寧に福神漬けも添えてあり、会田さんっぽいなと思う。

「会田さん、料理するんですね」
「ああ。最近するようになった。」

 最近、と言う言葉が引っ掛かった。深く聞くのも気が引けたが、会田さんの表情が変わったのが伺えたから、それは何か聞きたくなる。聞けば会田さんは、無表情に言った。

「前は…同居してた彼女が作ってくれてたんだが、もう別れてしまったからな。自分でやるしかなくて」

 暗い顔をして答えられたので俺が謝ると、会田さんは首をふった。本当に気にしてなさそうだったけれど、俺が気にする。胸が、痛い。
(聞かなきゃ、良かった)
 こんなに惨めになるなんて、泣きたくなる。自分で聞いておきながら、会田さんに彼女が居たなんて当たり前のこと聞いて、ショックをうけているなんて。女々しい自分がいやになる。
 会田さんはさっきの話はなかったかのように、いつの間にかつけたテレビを見ていた。会田さんの横顔は相変わらずかっこよかった。俺から誘ったのに、会話が交わされていないことに気付いた。申し訳なさに口を開こうとすると、俺の携帯が鳴る。会田さんを見ると何も反応してなかったので、出ることにした。

「はい」
『あ、清野? 井島田だけどさ。』
「ああ、なんだ、井島田か。」

 俺が言った瞬間、気にかけていた会田さんの顔が険しくなった。うるさかったのだろうか、俺は視線を会田さんからずらして小声で喋る。

「なんだよ?」
『なんだよ、って! てめぇな、人がせっかくお前が探してたCD見つけたから、電話してやってんのに』
「え、うそ、欲しい!」
『どーしよーかな』

(うう、井島田のあほ、くそ、おたんこなす!)
 頭では暴言を吐きながらもどうにかお願いすると、井島田は渋々買ってきてくれると約束してくれた。わざわざそんなことで電話してくれた喜びと、探していたCDが手に入る楽しみを噛み締めながら携帯を閉じる。会田さんは、というと、テレビを変わらず見ていた。さっきの表情は気のせいだったようだ。ソファーに戻り、カレーを一口食べる。
 好きなひとの手料理を食べれるなんて、俺は幸福者だなんて思う。しかもこのカレー、美味い、美味すぎる。やっぱり好きな人が作ったと言うスパイスが効いていて、これまた美味しい。彼女さんが居たときにはなかった、特別な会田さん。片想いって辛いけど、こんなことされると片想いしてて良かったと思う。

「会田さん」
「ん?」
「美味いです、カレー」
「そうか」

 いつもは向けられない、柔らかい笑顔を見て、今日も頑張って良かったと思えるんです。

貴方の料理は不思議です
(胃の中に、宝物として生きていく)

(いっぱいあるぞ!(パカッ))
(う、うそこんなに?)
(どうした? 清野? ああ、さすがにこれはたべれないか?しゅん)
(きゅん(落ち込む会田さんかわいい!)い、いやいやいや! 食べさせてもらいます!)










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