あと3日で夏休みに入る。いつもの春ならばこの時期は浮かれるはずなのに、その本人は今、もうとっく過ぎた梅雨のどんよりとした空気であった。
 昨日の事が衝撃的過ぎて眠れなかった…!
 昨日の事、とは桐間とのキスのことについてである。春の昨日の夜はただひたすら思い出しては悶えるだけで、睡眠に入ることは出来なかった。今日も学校へ桐間と二人で来たが、一言も話さずじまいである。桐間も桐間で来たは良いが、授業をさぼっている。春はいつもなら残念に思うが、今回だけは会わなくてすむのでありがたかった。
 首しめられた怖い思いさえ、打ち消す桐間…恐るべし。
 春は中指で眼鏡を上げながらにやにやと笑う。あれだけ怒っていた春はどこにいたのか。結局桐間を思い出しては、好きと思うだけだった。さて、そんな春を最初から見ていた龍太は、嫌な予感がしていた。今まででこんな春に話しかけて良い話を聞けたためしがない。だが話は伺いたいと、恐る恐る春に近づいた。

「しゅ、しゅん、どうしたんだよ?」

 後ろから肩をたたいて、龍太は耳元で呟く。春はいきなり話しかけられ、ついでに耳元で言われたので驚きながら振り向いた。
 どうしたんだ、この問いに答えたいのはやまやまである。だが、春は悩んだ。男同士のキスした話を聞いて、気持ち悪いと思わないやつはいないのではないだろうか。これは言っていいのか。
 だけど、龍太は唯一恋ばなを聞いてくれるやつだし…!
 春は龍太の手を無言でとると、はてなまーくを浮かべている龍太を廊下まで連れていく。その様を、浩はうちわをあおぎながら不思議そうに見ていた。

「あ、のな!」
「ん?」

 動揺しながら言う春に廊下の壁に押し付けられても、龍太は優しく聞き返す。春はそんな龍太になら、ともっと人気の無いところまで連れていく。
 あまり人が通らない管理棟の一階。そんな階段の下に座らせると、昨日あったことを春は一から十まで話した。ついでにこの話は浩には言わないと、暗黙の了解だ。浩が聞けばあの過保護がなにをするかわからない。
 話が続くにつれて、龍太の顔は歪んでいく。
 そして最後には、目眩がしたように目元をおさえた。

「しゅん…お前たち、なにをしてんだよ。ばかか」
「はあ、俺だって知りたいわ!」

 言いながら頭をぐしゃぐしゃにして、手を上下に震わせる。いっぱいいっぱいなのだと知り、龍太も深くは言えなくなった。
 じゃあ話を変えよう、キスの話をすれば春は照れて話にはならないので、龍太は他に視点をおいてみた。

「考えてみろ。桐間の誰にも触らせないでは、ある意味独占欲から出てんだぜ? そう思うと、桐間の気持ちが手に取るようにわかるっつーわけだ!」




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