「な、んで!」
「したかったから」

 桐間は春を睨みながら言う。反論はさせないような言いぐさであった。春もそれは好きな人からされて嬉しいが、そんな理由では聞き捨てならない。

「おかしいだろ! お前、俺の気持ち答えられないって」
「別に、キスぐらい良いでしょ。なに、嬉しくないの?」
「はあ!?」

 春がそう食いかかった瞬間、外に車が止まる音がした。きっと清道であろう。春はこの話を聞かれたらまずい、と自分から清道の所に行くことにしてベッドから立ち上がる。
 桐間はそこに手を添えようとするが、春は拒んだ。ならば、と桐間も手助けをせず、二人の間に険悪なムードが流れる。

「あのさ、もう二度と他のやつに触られないでよね」

 桐間はよろけながら歩く春に、後ろから呟くように言った。春は振り返り桐間を見ると、近くの椅子に手を添える。

「なんで、そんなの俺の勝手だろ」
「だって他のやつがお前に触るとむかつくんだもん」
「意味わかんね、なんだよそれ」
「俺も分かんない」

 桐間は複雑な表情で、どこか一点を見つめた。春も桐間の方を見れず、うろちょろと視点を巡らす。
 桐間に対してきつく反論している春であるが、正直心の中は浮かれていた。
 友達としては心を開いてくれたが、それが恋愛に発展するかと言えば、確実に違ってくる。だがそれを踏まえて、男の友達にましてや自分を好きな男にキスするなど、危険行為を簡単にするほど桐間はバカではない。考えた上での行動と言える。
 そのため、今の行動について分かることは、少しでも自分に希望が見えてきたということになる。それが分かった春は、はっきり言って、ここで踊りたいくらい嬉しいことであった。
 だが、問題なのは、桐間はもしかしたら自分に同情してキスをしたのではないかということだ。こんなことがあった後だ、いつもは元気な春がしおれていては、気が変になってもおかしくはない。
 もし、そんな同情でされたのだとしたら、腹立たしいことであった。だからこそ、今の行動には春は素直に喜べない。そして、変な嫉妬をされた上にその理由が「わからない」と言われてしまっては、春だって混乱してしまう。
 廊下を誰かが歩く音が聞こえて、春はドアを開けながら、勇気を出して桐間をみた。だがそんな勇気も虚しく、桐間はいつもと変わらない顔をしている。あんなことをしたばかりなのに、平然としている桐間が、また増していらついた。

「俺のこと好きじゃないなら、もうそんなことすんな」

 春は怒りのあまり、桐間にそう言い放つ。こんなに桐間のことを怒ったのは、功士のこと以来で、春が怒っていると気付いた桐間は、声を掛けようとした。だが、その春の冷たい目は桐間はみたことがなく、驚いて珍しく素直に春の言葉に頷いている。
 春はそれを確認すると、勢いよくドアを閉めた。それを見届ける桐間は、舌打ちしながらベッドに座り込む。

「なんで、あんなに怒ってんだよ」

 本当になにがなんだかわからないとでも言いたげに、桐間はそう言いながらベッドへと寝転んだ。




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