春はブランケットを肩に掛けながら、清道の迎えを待っていた。迎えなどいらないと言ったのに、保健室の先生が勝手に呼んだのだ。頭がすこしぼんやりとするだけで、後は何にもないのに、と春は思う。

「少しは良くなった?」

 閉ざされていたカーテンが開けられた。春は頷くと、カーテンを開けた桐間は微笑む。職員会議に行った保健室の先生の代わりに、桐間が春を見ていてくれていた。すべて桐間に世話になって、春は申し訳ないと思う。
 男から首を絞められて意識を手放しそうになった春を助けた桐間は、男が春に近寄ったと分かった時点ですでにドアを開けようとしていたが、男が鍵を掛けたせいで開くことはない。だが大きな音がしてさすがにまずいと思った桐間は春の名を叫び、その声に駆けつけた教員が、スペアキーでドアを開けてくれたのだ。あの後、放心状態の春を桐間が抱えて保健室につれて行った。その時の桐間が、やっぱり泣きそうだった事しか春は覚えていない。残された男は他の教員に押さえつけられながらどこかへ連れて行かれたが、その場所はどこかは知らない。
 一部始終を思い出しながら春はきまずそうに、桐間をみた。

「桐間、ごめん。俺があいつを挑発するようなコト言ったから、迷惑かけたな」
「別に、逆に言ってくれて清々したし。ありがとうね」

 ありがとう、など。桐間から普通聞けない言葉である。春は何故かそのことばを聞いて嬉しいはずなのに悲しかった。
 それは桐間が無理をして優しくしていると思うからである。春を抱き締めたとき、あんなに泣きそうな顔をしていたのだ。あの男の話を聞いて、悲しいに違いない。なのに、そんな自分を差し置いて、人にやさしくするなど。

「ごめ、ん」
「は? だから、いいって」
「あんなやつ、ぶん殴っとけばよかった。あんな酷いこといって、桐間をすごい傷付けて。桐間のことなにも知らないくせに」

 怒りで震える春を見て、桐間は静かに見守る。春が桐間を見ると、またなきそうな顔をしていることに気づいた。
 また、桐間を悲しませた。自分ではどうにもできない。春は自分の無力さに、絶望した。きつく手をにぎりながら、桐間をみる。

「ごめん、桐間。おれお前を悲しませてばっかだ、あんな泣きそうな顔にさせて、なにも力になれてない。ごめん」

 泣きそうになる春は出てきそうになる鼻水をぐし、とすすった。ここで泣いたら、だめだ。一番桐間が悲しいのに、一生懸命目に力をいれるが、世界は滲むばかりだ。泣き虫、とこころのどこかで自分をけなす。
 すると桐間は、春の肩を持つと自然に下を向いていた春を上に向かせる。春は合わせる顔がないと思ったが、桐間は気にしていないらしい。春の頭に頭突きをすると、痛がる春を見て微笑んだ。そして両頬をもち、自分と向かい合わせる。

「きりま、」
「だからあんなやつの言葉、悲しくもなんともないっていったでしょ。別に母親にどう思われようがどうってことないし、逆に捨ててくれてありがとうって感じ。今の俺の親は功士だけだって。それより、」




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