「なんで、そんな酷いことを言うんだよ…」
「酷いコト? だって事実だろ、しゅんくん。美奈子だっていってたよ、あんな子供いらないって、お荷物だって、だから置いてきたって。本当、笑えるよな。まあおれもあんなに可愛くないなら捨てるよ」

 男が言い終わったと同時に、春の怒りは頂点に達していく。男から逃げていた春は逆に自分を掴む男の腕を持ちながら、男に殴りかかろうとした。だが、その瞬間、ドアが目に入る。
 かげが、揺れた。
 きっと外に桐間が居たのだろう、ゆらゆらと揺れている。ドアは薄い、先ほどのような大きな声では、桐間にさっきの男の話を聞かれているだろう。春は居たたまれなくなった。殴る気など失せた。
 ただ、今は桐間が心配だったのだ。
 春は拳を下げると、殴られる覚悟だった男が離したすきに手を振り払い、立ち上がる。

「お前みたいな人間が桐間を語るなっつーの。桐間は誰かが語って良いほど安い人間じゃねーんだよ! そんなことばっか言って平気で人を傷つけるからあんたは美奈子とかいう人に捨てられたんだろ、人をいう前に自分を見ろ。ばーか!」

 ふん、言ってやったぜ。
 春は得意気になりながら、にやりと笑った。男の表情が見れないのは残念だが、春は桐間が心配なので、そのままドアに向かう。ドアの向こう側でまた影が揺れた。ドアを開けようとしていたようである。開けられないのか、と思って引っ張ってみると鍵が掛かっていた。男がかけたのだろう。
 鍵をとこうと手を伸ばすと、それは叶わなかった。
 春は髪を思い切り引っ張られ、大きな音をたてて後ろに倒れ込んだ。起き上がろうとするが背中が痛くて立ち上がれない。咳き込むなか、薄目を開けてみると自分の上に男が乗ってきたのが分かった。男はなにやらぶつぶつといいながら、春の首に手を伸ばす。きゅ、と喉仏が締まるのが分かった。
 死ぬ、やばい、これは。
 脳が助けを求めていた。だが怖くて言葉に出せない、口は動かず涙が出るままだ。
 ドアの向こう側で叫び声が聞こえる、俺の名前を呼んでんの。これは桐間のこえ、だな。心配してんの、かな。うれしくて、おれ、なきそ…

「きり、ま」

 そう呟いた瞬間、酸素が行き届かなくなり、ぼんやりと意識が薄れた瞬間、薄暗かった部屋に光が差し込んだ。そして、首を唸らせていた手がほどかれる。一気に入ってくる空気が逆に苦しい。止まらない咳がうっとうしかった。
 俺、生きてる、なんで?
 首を押さえながら、目を開けると、目の前には愛しい人がいる。

「呼んだか、ばかやろう」

 何故か泣きそうな桐間が、そういいながら、俺を抱き締めた。





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