「なー、しゅん。ちょっと話したいことあんだけど。」

 授業が終わり生徒がぞろぞろと帰るなか、龍太はこっそりと春に近寄った。その言い方からしてなにか春に伝えたいようである。
 だが、春はこのあとサッカー部に行き、本格的に練習をしなければならない。先輩がいる手前、遅れていくなんてことはできなかった。

「あ、いや、その」
「サッカーか。ごめん、だよな、じゃあまた今度にするわ。」

 困ったように春が言葉を詰まらせれば、龍太もなにも言わなくともわかったようで、言いづらそうな春の代わりに龍太から切り出した。ごめんな、と言うと龍太は気にしてないように笑いながら、ドアで待っている浩のところまで小走りで向かっていく。
 見た目とは違って良いやつだな、ほんと。
 春は鞄を肩に掛けながらそれを見届けた。断っておきながら、少し龍太が何を言おうとしていたのか気になる。だが、こちらも待たせている人がいた。もうひとつのドアに寄りかかりながら待つ桐間を見る。

「ありがと、待っててくれて」
「ん。」

 一緒に歩く桐間は返事をしながら暑そうに顔をしかめた。春はそれを見てよりいっそう暑くなった気がし、ぱたぱたとワイシャツに空気を入れながら歩くと、桐間がいきなり止まる。どうした、と桐間を見てから桐間の視線を辿っていくと、そこには担任が立っていた。

「しゅん、ちょっといいか?」

 まるで桐間などいない存在かのように、春だけを見て微笑む。そんなことができるこの男が、春は怖かった。近付いてくる男に気付かれないくらい、ちいさく、後退りする。

「おれ、今から部活が…」
「溝呂木先生からは許可を取った。君の成績について、二人きりで話がしたいんだ。部外者はいらない。」

 後退りも意味なく、男は春の手を掴んだ。その力はだんだんと強められていき、さすがに春も本気で抵抗する。
 すると、男の手を誰かが掴むと思い切り春から振り払った。春も男も驚いた顔をして、誰かをみた。

「春に触んないでくれる? お前みたいなやつが触っていいと思ってんの」

 いつもの調子で、人を見下す話し方で男を嘲笑う。振り払ったのは桐間だ。驚いたままの春が桐間の名前を呼ぶと、桐間は春を庇うように立ち男をにらむ。
 男は一瞬掴み掛かって来ようとしたが、どうにか理性があったらしくその手は引っ込められた。咳払いをして、仕切り直したかのように春を見る。

「俺は担任なんだ。成績の悪いしゅんに指導する資格はある。君にとやかく言われる筋合いはないんだよ。」

 そんなに嫌ならもう触らないって約束するしね、とわざとらしく手を上げた。
 話を聞いて、仕方なく桐間は春の前から退くことにする。確かに男の言っていることは間違っていないからだ。春も黙って前に出る、やはりまだ怖いのか、いつもの元気な様は無かった。
 男が歩き出し春もその後ろについて、近くの生徒指導室に入り込む。





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