暫くすると、前から人が二人ほど見える。ネクタイの学年色からして、先輩だと分かった桐間は帰る、と腰を上げた。どうやら本当に春に付き合って待っているだけだったらしい。
お礼を言ってから桐間とわかれると、すれ違いで先輩が春の名前を呼んだ。
「おっしゅんじゃねーか!」
「こんにちは、永川先輩、八町先輩」
「てめーこの眼鏡、今まで部活来ねーで何してたんだ!」
春に勢いよく話しかける二人は、永川と八町というらしい。
永川と八町はまだ春がサッカー部を真面目に行っていたときに良くしてくれた先輩である。永川は目付きが悪く鼻のピアスが目立ち、身長は低めだ。八町は、というと反対に優しそうな顔をしながらも口は悪く、身長は高い。
そんな先輩二人に責められ、春は笑いながら謝るとどうやら許してくれたようだ。はなから本気で怒ってはいないようだが。
口は悪いがいい先輩である。二人は春に近寄り、怒ったように春の頭をぐしゃぐしゃと崩すが、顔は笑っていた。部活は引退か、と思うとちょっぴり寂しい春だった。
「あ、そうだ。一年が結構入ったんだよな」
そう言う永川は少し嬉しそうだ。それもそうで、サッカー部は人数が少ない方であった。
だが春は、人数どうこうよりどんな者が入ったか気になる。春も一応サッカー少年だ。テクニックのある者がいるのか、純粋に知りたかった。
「そうなんですか、見てみたいな!」
「中にも超男前がいてよ。そいつ目当てに入るマネージャーが増えてくばかりだよ」
八町があきれながら言うが、女たらしであるので本当はうれしいのであろう。おとなしく部室で待っていることにすると、次々と後輩や同級生が入ってくる。同級生は懐かしい顔ぶりだが、後輩は初めてみるので緊張した。
どことなく挨拶を続けていると、ドアがゆるゆると開く。
「おはようございます。」
その声を聞いた瞬間、春は眉間にシワを寄せながらそちらに目を向けた。八町は来た、と少し楽しそうにしながら彼に近づく。八町と共にいた永川は彼を指しながら、紹介しようとしたが、それより先に春と彼の目が合った。
「「あ、あの時の…」」
全く同じタイミングで、お互いに指を指しながら言う二人。春ともう片方は、男前と呼ばれた後輩である。その正体は、“電車の定期を落とした彼”だったらしい。
永川は彼を指していた手を気まずそうに下げる。それをみて八町は笑いそうになりながらも、春に聞いた。
「お前ら、知り合いなのか?」
「いや、なんというか…」
知り合い、という訳でもないので春は言葉を濁す。大人びて見えた彼が、まさか後輩だとは知らず。春はなんだか悔しくなった。
それを見ながら、彼は苦笑いして八町の方に向く。
「前に色々とお世話になったんです。すみませんが、少し外で話してきてもいいですか。」
彼の行動に永川と八町が目を合わせる。いいぜ、どちらかが返事をするころには、彼は春を連れて外へと向かっていた。
ぱたん、と閉じた扉を見て、二人はまた目を合わせる。なんだか彼に違和感を感じる二人であった。
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