部室どこだっけ、などとどうでも良いことを考えていた春への衝撃は大きい。拗ねたように言う桐間の機嫌がもっと悪化してほしくはないが、自分を知ろうとしてくれる桐間が嬉しかった。

「なんだ、早くいってくれば教えたのに」
「別に知りたい訳じゃないからね。ただ俺ばっかお前に知られてるのがいやなだけだ」

 これが世の言うツンデレか。春はツンデレもいいものだなとにやにやしながらの方に向くと、桐間は汚いものを見るかのように春を見た。春は桐間の目に気付き、どうにかにやつきを隠す。そんな春になれている桐間は、黙ってのろのろと歩く春に歩幅を合わせた。
 いつの間にか部室の前についていた春たちはどうやら来たのが早いらしく、部室はまだ閉まっている。春は仕方なくその場に座り待つことにした。桐間を見れば、桐間も待ってくれるようで座り込む。
 だが、よく考えてみれば流れで二人仲良くここまで来たはいいものの、このあと桐間はどうするのか考えてはいなかった。桐間はサッカー部員ではない、待っていても得はないだろう。わるいことをした、と春は横目で見ながらしかめ面をする。
 そして、それと共に話の内容が浮かんできた。

「桐間」
「あ?」
「俺な、血液型はAB型らしい。」

 微かに、間が空く。
 桐間はゆっくりとうなずいた、その顔はかなり困っていたが、春はまた口をひらいた。

「好きな食べ物はー、いっぱいあるけどオムライス! 犬と猫好きで、嫌いなやつは毛虫。バイトしてないからニートで、今貧乏生活中で…」
「なんだよ、いきなり」
「いや、あはは、なんとなく俺のこと語りたくなった。」
「…なんだそれ」

 気にくわないような表情をしたが、どうやら聞く姿勢はあるらしく座る足に手をかけて春に顔を向ける。それが合図かのように春はまた、話し出した。

「んー、色は黒と黄色が好きだぞ。一人っ子で三人家族なんだ。超過保護な父親がいる、功士さんともなかがいいぞ。」
「ふーん」
「ああ、えーと、あとな」


「 桐間が大好き。 」

 不意討ちに、春はいいながら桐間を見返す。
 桐間は驚いたのかいつもの表情を崩した顔で春を見た。それを見て春は悪戯っぽく笑う。
 笑われたことに苛ついた桐間は春の頭を叩くと、そっぽを向いてしまった。だけど本当に怒ったわけではないのが分かる。耳がほんのり赤い、照れているのだ。

「桐間かわいいな、お前!」
「殺すぞ」

 もう気持ちがバレてしまっては、隠す必要もない。このドキドキした気持ちを、思った時に思った通りに桐間に伝えたいのだ。
 にやけが治まらないでいると、あきれたようにこっちを向いて春の頭をつつく。なんだ、と向けば、桐間が目を細めた。

「うーん、ゲスだな」

 知ってるもん、いじける春に、桐間はしてやったりと笑うのだ。




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