どうすればいいかわからない。とは、今の状態だった。いつもの自分ならば浩や龍太に意見を聞いて、それですっきりするのに、今回はすっきりもなにもない。逆に考えが深まるだけだった。
 どうしよう、おれ。桐間と一緒にいないのが、苦しい。
 ちょっと前までは桐間が隣にいないのが当たり前だったのに、今ではいることが当たり前になってしまった春は嫌われていることですら辛いのに、桐間が近くにいないことでまた苦しんでいる。
 話をしなきゃいけないのに、行く勇気もない。
 春は駅へと向かうが、ここも最近は桐間と一緒に帰っていた道だ。思い出して余計に泣きたくなった。立ち止まり、涙が滲みそうになった、その瞬間。

「おい、馬鹿、来んのおせーよ」

 一番聞きたい人の声が、春の耳に入った。

「桐間…」

 桐間が鞄をだるそうにぶら下げながら、春をなんの表情もなく見ている。春は顔をそむけようとするが、桐間がそれをさせなかった。両頬を片手で固定して、無理やり向かせる。春の顔は崩れていたが、春はそれどころではなかった。一生懸命に桐間から逃れようと必死だ。
 会えたのに、顔見れない! 逃げたい、逃げたい!
 さっきとは矛盾したことを春は思うが、それを行動にしても桐間はすこぶる不機嫌な顔で逃げようとする春を止めるだけである。不機嫌な桐間に気付き、やっと抵抗を止めた春をみると、桐間は口を開いた。

「お前、待っててやったんだ、逃げようとしないで聞きなよ。」

 切羽詰まった春は待ってろなんて頼んでない、と言いそうになったが、なんとかある理性が頷くだけと選ぶ。桐間は春の手を痛いくらいに持つと、これでもかと春を引き寄せた。

「あのさお前俺のことすきなんじゃねーの。なのになんで告白した次の日には俺のこと避けてんだよ」

 桐間は春を睨み付ける。だが、桐間の目付きすら春の脳には伝われていなかった。なぜならば耳から入った情報の方が衝撃的だったからだ。
 ややややや、やっぱ告白ってバレてるー!
 春は半泣きになりながら、桐間を見ると、桐間は訝しげに春をみた。

「んだよ?」
「こ、告白ってなんで。俺、忘れてって…」
「ああ、あんな態度ですきなんて言われたら、誰だってわかるでしょ」

 あ、そうだよね。
 当たり前のことを言われて、春はゆっくり頷く。桐間はそれに笑いそうになるが、それより、と話を変えた。

「だから、なんで避けるんだよ」
「だって、桐間、告白したとき顔歪めてたし、軽蔑されたかなって」
「あれは! 驚いただけだろ…。」
「あと、そのあと避けられたから、気持ちわるかったのかなって。今日だって先に帰ったし」
「避けたのはお前が先にしたことだし、帰ったのは三日連続でバイトなの。言ったろ、駅前って。」

 桐間は駅を指しながら、困ったように言う。すべてを聞いて、春がちらりと桐間を見た。困った様からして余裕がないようで、嘘をついているわけではないらしい。春は自然と桐間から逃れるように斜めになっていた体も、桐間のほうに向いていた。
 春が桐間とちゃんと向き合えば、次は桐間が咳払いしながら春から目をそらした。

「お、お前がなんか勝手に落ち込んでるし、見てらんないよ、ほんと。お前の、気持ちは答えられないけど、離れることないじゃない。」

 なんで俺からこんなこと言わなきゃいけないの。
 桐間が半分落ち込みながら言うと、春は驚きで引っ込んでいた涙がまた流れ出しそうになった。よく考えてみればいまからバイトというのに、待っててくれたなんて。学校で待てばいいものの、きっと龍太と浩がいるからやめたのだろう。そして学校で話すのを止めて、わざわざ会えるかわからない大きな駅で待つとは、桐間の不器用さにわらってしまう。
 だが、それが嬉しくて春が桐間に近寄ると、気付いたように桐間が顔を上げた。春は、桐間を見ながら、ありがとう、と言う。

「別に、礼なんかいらない」
「ううん、ありがとう、桐間。あのな、ちゃんと告白できなくて嫌だった。でもそれ以上に、桐間が隣にいなかったこと、苦しかったよ」
「…おう」
「避けててごめんな、怖かったんだ。また最初に戻るんじゃないかって」
「ばーか」
「うん、ごめんね」

 照れ臭そうに春が笑って、桐間は鼻を鳴らすだけである。

「好きだよ、桐間」

 分かってるよ、桐間が皮肉そうに言った。


 どうやら春の最後の弱虫は彼が代わりにふんでくれたようである。





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