用意されたコロッケを、満腹になっているというのに桐間は黙って口に運ぶ。功士はにこやかに見るだけだ。少し立って、桐間はコロッケに向けていた目を、功士に向ける。

「なあ功士」
「ん、なんだい」

 そう聞き返した表情は朗らかなままだ。いまなら、と桐間は腕を組みながら口を開いた。

「男を好きになったって言ったらどうする?」

 功士の表情が凍るのが分かる。仕方がない、桐間が妙なことを言い出したのだから。さっき一人で悩んでいた桐間はもういない、前々から気づいていた。どこかで開き直っていたのだ。
 あえていってやらないけど。
 功士は固まったままである。開き直ってしまえば、また余裕に戻る桐間だった。



 ところが、それから三日間。
 桐間の考えが変わったため良くなると思った矢先、二人の関係は気まずいままだった。

「しゅー」
「ぎりぎりぎり」

 春と桐間が奇妙な音を出しながら、険悪ムードである。名前順の席ではさらに近くなるので、その状況を悪化させた。二人を知らない者達はひたすら肩を震わせる。
 テストが終わりSHRを始めるため、担任が来るのを待っているその少しの間、二人を見て、龍太は浩にかけよった。

「あれやばいだろ、しゅんやばいだろ、だってしゅー、っていいながら口から魂出てるもん」
「ああ、出てる、出てるぞ。あんなしゅんはじめて見た。ついでに桐間もどうしたのだろうか…」
「歯軋りがうるせーし、まず顔が恐ろしすぎるだろー!」

 龍太と浩は春と桐間に聞かれないようにこっそりと耳打ちしながら話す。しかし、春と桐間は自分の話などまったく聞こえず、ただ真っ白になったりどんよりとなりながらテストの体制のまま固まっていた。これが三日も続いているのだから驚きである。
 実は春が告白してから、ここの三日間、二人は言葉を交わしていなかった。なぜかと言えば、春がことごとく桐間を避けているからである。そして避けられてる桐間は、人一倍プライドが高い。春に避けられてから、じゃあ俺も、と桐間もまた避け返すという最悪な状況に陥ってるわけであり、告白擬きの時に桐間が見せたあのすばらしい決心も春のその態度のせいで消え失せてしまったのだ。

「春に聞きてーとこだけどよ。大丈夫かな。」
「…聞いてみるしかなさそうだな」

 龍太が浩のつくえに肘をつきながら、浩を見上げた。浩は仕方ないといったようすで、しぶしぶ頷く。龍太と浩は放っておけるはずもなく、二人一緒にため息をついた。





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