歩きながらピアスをいじくる桐間は、先ほどの春がした行動のひとつひとつ、むしろ伝えたいことすら分かっていた。
 桐間は人の気を伺わないが、決して気持ちに鈍感なわけではない。今まで傷つけてきた人間は、自分で判断して故意的に傷つけてきたわけで、むしろ人の気持ちには鋭い方だ。だから春が自分に近付きたいと思っていたことも知っていたし、好かれていることも知っていた。そしてその気持ちに自分は答えようとしていた。だが、それはあくまで“友情”である。
 春がつい、さっき、桐間に向けてきたものは友情ではない。その正体などいやでもわかってしまうのだ。
 …あいつ、ばかかよ。
 桐間は静かに思うも、そのなかには侮蔑や冷淡な感情は含まれてはいなかった。たしかに春に告白されたとき、すぐに否定されて少しホッとしたが、嫌ではなかったのだ。答えは既にNOであるし、それを言って春を傷つけるのは気が引けたので、なかったことにしてくれたのはありがたい。
 だが、“嫌ではない”、むしろ続きの言葉が繋がれていかないことに、残念な気もしていたのだ。これが桐間を困らせた。春を傷つけると知りながらも気のきいたことも言えず、一方的に春に背を向けたのはこの自分がいたせいだ。もしもう一度はっきりと告白されたら、その残念と感じた自分が今と違う答えを春にいってししまうかもしれない、そう思い自分を押さえるためにその場を去ったのだ。
 ばかは俺か、あいつに揺るがされてるのは、間違いなく俺なわけだしね。
 桐間は心のなかで自分を嘲笑う。こんなに自分を責めたのもいつぶりか、分からなかった。いままで人のせいにして生きてきた。それが今となっては自分の否を認めるなど。

「ったく、あいつのせいでおかしくなったもんだよ」

 呟いた言葉には、少し愛情が含まれていた。それが自分でも分かり、また笑いそうになる。
 いつの間にか着いた家に入ると、そこにはもう功士が帰っていた。何故と桐間は時計を見るがそこで納得する、もう10時を回っていた。春との勉強や話に夢中でどうやら時間すら忘れていたようである。

「おかえり、遅いね」
「春と勉強してた」

 桐間が言えば功士はうれしそうに微笑む。どうやら桐間が理由を話したのと、誰かと居たというのが嬉しいらしい。確かに前にはこんなことありえないと言っていいだろう。ついでに、今当たり前のように桐間は功士の前に腰をかけているのも、今までではなかったことだ。




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