「ど、どこでも!」
「どこでもぉ? ん、じゃあ俺決めるか」
そう言うと桐間は目の前にあるいつものお手頃なファーストフード店に入った。奢りならばもっと高いところに行けばいいものの。
桐間は無意識に、尚且つ近い場所だったからここを選んだのだろうが、深い意図がなくともやはり嬉しかった。適当に桐間が頼むと、春も一緒に頼む。そして一緒に椅子に座った。
「で、なに勉強すんの」
ポテトを口に含みながら、桐間は春を見る。全部、などと言ったら殺されてしまうので、とりあえず一日目の教科を並べてみた。
その中から数学を取り3分ほど目を通すと、桐間は春に教科書を返す。まずこれをやってみな、と指され春はシャーペンを取るが、やり方すら分からない。苦笑いすると、桐間はあきれながらも丁寧に教えてくれた。
「お前授業聞いてるの?」
「聞いてるけど、左から右に流れていくんだよな、あはは」
「それって聞いてないっていうんだよね。」
桐間がテーブルに教科書を叩きつけると、春はそちらを見ないようにする。さぞかし怒っているだろう、春はノートに向かうふりをすれば、桐間は折れたのか勉強の続きを言うのだった。
‐‐‐‐‐
幸せな一日だったと、春は思う。
「なあ桐間」
「なんだよ。」
「ありがとう、凄いわかりやすかったぞ!」
ただ素直に思う春はそう述べると、桐間はふん、と言うだけであり、なにも返事はしなかった。照れ隠しなのだと思うと、少し面白くなる春は、きっと余裕があったからだろう。
「じゃーな」
分かれ道、桐間がゆっくりとそう告げた。まだ一緒に居たいとそう願うが、それは桐間には伝わらないだろう。すっかり背中をみせた桐間は、春とは違う道を進んでいく。
日に日に変わりながら感じていく桐間の優しさに、よりいっそう惹かれる優しいのだ。
今、好きって言いたい。 何故か、思ってしまう。気付いたときには、桐間の背中を追っていた目は、桐間に近くなっていた。
「桐間」
「ん?」
後ろに見えた街灯が滲んで見える。暑いのも街灯が、自分を燃やすからだ無駄に言い聞かせた。
今なら、言える。
「好き」
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