「赤色の電車の定期です。ここらへんしか通ってないので、あると思うんですが」

 見惚れている場合ではない。彼は本当に困っているようだ。春は任せとけ、とだけ言うと彼に背を向け、周りを見て回る。彼はそんな春を見て少し微笑むと、春とは反対の方向を見た。二人係だがなかなか見つからないようで。
 暫く待っていた桐間は、近くにあった自動販売機に背を預けると、面倒くさそうに見る。
 ばからしい。
 桐間は携帯に目を向けると、春から目をそらした。別に気になるわけではない、奢って貰わねばいけないからだ。桐間が足を動かそうとしたとき、あちらから春の喜びの声が聞こえて、春のお人好しさにあきれる。
 春は何度もお辞儀する彼ににこにこと笑顔を見せながら、なにか話しているようだ。

「本当にありがとうございました、助かります」
「いえいえ、またなんかあったら周りのひと頼りなよー」

 いつの間にかため口になっている春といつまでも礼儀正しい彼の会話を聞きながら、春が来るのを待つと、春はすぐに話を済ませて桐間のもとに走ってきた。
 桐間はそれを横目で確認すると、無言で歩き出す。

「な、なあ、桐間。怒ってる?」
「怒ってない」
「うそだ、なんか怒ってるよ」
「うるさい黙れ」

 黙れ、と言われてはさすがにべらべらとは話せない。何事にも自分中心な桐間が待っていてくれただけましな方と春は自分に言い聞かせて、桐間のあとをついていく。

「お前なんかが俺を待たせていいわけ?」

 ぽつり、と呟いた言葉はやはり怒っているようで。春は上から目線ではあるが子供のようにふてくされる桐間を見ながら、愛しさは溢れるばかりだ。
 ごめんね、優しく言えば許してくれたようで桐間の歩く速さが心なしか遅くなった気がする。春は次こそ隣に歩こうと、その歩幅に合わせた。
 さて、どこで奢るのか。
 春は桐間の隣でキョロキョロと周りを見渡した。すると桐間は春を見て、目を細めた。

「どこがいい?」
「え」
「決めていいよ」

 あまりにも優しく言うものだから、春は反応が遅くなる。高校生らしい言葉遣いの悪い桐間を見たことはあるが、こんなに大人の対応をする桐間を見たのははじめてだった。しかも、春に意見を聞くなんてことはなかったので、聞かれた本人は驚いていた。
 桐間の言い方はまるで彼氏が彼女に意見を聞くような、優しい声。春の頭はいまさらデートということばが出てきて、パンクしそうになる。




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