「お前さ、教えてほしいんだろ」
「え。」
二人仲良く影も並べながら帰る途中、桐間が偉そうに言った。春は聞き返したが、すぐに勉強のことだと分かる。確かに教えてほしい。明日は苦手な数学と科学であるし、なにより桐間が教えてくれるというこれ以上にないような、嬉しいオプションまでついている。遅れて頷けば、桐間はさも満足そうに笑った。
「教えてやるよ、だからなんか奢りな」
ああこんなこと、分かっていたさ。
春は桐間の笑顔になにも言えず、財布と相談する前にずかずかと歩いていく彼の後ろについていく。高いファミレス嫌だな。前が滲みそうになるのを感じながら歩くと、ふと、一人の人間に目がつく。
同い年くらいで、春と同じ制服を来ている男の子だ。エナメルのバックを肩に下げながら、一生懸命、なにかを探すように周りを見ながら歩いている。
春は見ないようにするが、あまりにも困った顔でうろちょろとしているので、春は迷いながらも、桐間の服を掴んだ。
「桐間、ちょっと待ってて」
「あ?」
桐間の不機嫌な声に、春は苦笑いしながら、その“彼”に近寄った。彼はさらりとしてナチュラルにセットされた黒髪に、これはモテるだろうと一目で分かる美形である。身長も高くて、標準体型の春でも完全に見上げる形になった。
春は見惚れながらも、いそいそと近づいた。そこで桐間がきもい、と呟いたのは春はしらない。
曲を聴いているのか、イヤホンをしている彼の肩を叩くと、彼は春は尋ねた。
「あのーなにか探してるんですか? 良かったら一緒に探しますよ」
春がにっこり言うと、彼は一瞬驚いた顔をしたが困った顔から朗らかな顔に一瞬で表情を変える。
困った顔もかなりかっこよかったけど、今のはくらっと来たぞ!
春は桐間に続き、自分は美形に弱いと気づきながらも呑気に考えながら、彼の答えを待った。そうすると、また彼は困った顔に戻る。すみません、彼の声は声だけでも素晴らしくかっこよかった。
「いやいや、大丈夫ですよ。気にしないで下さい」
「こらあなた、人を頼りなさい! ほら、なになくしたんですか」
無理矢理と言っていいほどの春の言いぐさに、彼はわらう。それもぽー、と頬を染めながら見ていると、彼は赤色の…と呟いた。
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