「いいのかよ? 可愛い子だし、もったいないって」
「その子は俺の何を知ってるんだ」
飽きれたように浩が言う。春が金子と浩を付き合わせようとしていることは、浩には嫌でも分かった。そして浩がそれを嫌がっていることも、春は分かっている。だが浩がモテることを、ただ純粋にもったいないと思っている春は、誰か可愛くて良い子と付き合ってほしいと考えていた。つまりやさしくて、我が儘も聞いてくれて、気が利く浩には青春を送ってほしい、と春は思っている。
あと一押しだな、春は眼鏡を上げなげながら、浩の肩を持つ。
「おいおい、そんなこと言ってたら、浩は彼女が出来ないっつーの。」
「良い」
「草食系男子か、お前は! ほら、いいから、読んでみ…」
「良いって言ってんだろ!」
浩が手を振るうと、春の手は肩からずれ、手紙がむなしくも、床へと落ちる。浩がしたことに春は固まってしまい、した本人も固まっていた。暫く間が開き、きまずい雰囲気を破ったのは春である。手紙を拾い、少しはらうと、浩のかばんに押し込んだ。
「これ入れとくぞ。間違っても捨てちゃだめだからな、捨てたらお前指二、三本折るからな」
浩に向かい、ニカッと笑う。浩は少し気まずそうにしながら、ちいさく頷いた。それを見て春は様子を伺うと、浩のかばんを持ちながら教室を出る。
「さ、帰ろう! ほらほら、行くぞ」
「…しゅん」
ドアの隣で春が手招きすると、浩は春を逆に呼んだ。春がまた手招きをしても、動かない浩に、折れて近付く。すると、浩はじー、と春を見た。そんな視線に春が首を傾げると、浩はため息を吐いた。
「俺はお前が好きなんだ」
浩の言葉に、春は持っているかばんを落としそうになる。浩の見慣れた格好良い外見を見ながら、聞き直した。
「はい?」
「だから、あの」
吃る浩を見て、春は浩のシャツを引っ張る。近付けて、顔に添えて、 でこぴんを食らわせた。
「っつ…!」
「あのなぁ! お前が彼女出来ても遊べんだろうか! 頭良いのにそれくらいも分からないのかね、浩君」
得意げに笑う眼鏡に対して、浩は痛みと悩みに頭を抱える。そしてまた、心底のため息を吐くと、春の腕から自分のかばんを取り、そしてすたすたと歩いていった。それについていくもんくを垂らしながら着いてくる春に、浩は蹴りを食らわす。だが二倍になって帰ってきて、本日三度目のため息を吐くのだった。
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