「ついに明日だー!」
テストと言う地獄に机に当たり、現実から目をそらす春の拳に浩は鉄槌を下す。つまり浩が春の拳をつねった。春のテスト前には必ずあるうるさい雄叫びは、浩の活躍により唸りながらやっと収まる。
それを見届けながら浩は桐間を見た。いつもなら一人でどこかに行くのに、今日は珍しく教室に居て、しかも春についてきながらこちらのグループにきたのだ。意外だ。たしかに柔らかくはなったが、それは春に対してだけの勘違いであったことに気付いたのに、どうやら本当に性格が直ったらしい。今まで桐間と話してはいないが、春の話を聞いてしまった浩は、今までどこか同級生とは思えない雰囲気を出していた桐間が、普通の高校生に見えるようになるもので。
「桐間、お前は勉強できるのか?」
普通に話しかければ、桐間は驚いた顔をした。それはそうである。色んな人々といがみ合っていた桐間だったが、なぜか浩にはなにもしていないのに恐ろしい目付きをされていた過去があるからだ。
だが、桐間も引きずる男ではないし、自分に無害と分かり得たのか、腕を組むと春と話すように、そして自慢げに話しはじめる。
「もちろん、この馬鹿とちがって俺に出来ないものはないよ。ていうか頭良くなきゃ、今一年になりさがってるつーの」
春を指しながら憎まれ口を叩きながら答えた桐間に、浩はそうか、と苦笑いした。桐間の言葉も前はとげがあるようにしか感じなかったが、今は友達同士のふざけあいにしか聞こえない。いい感じではないか、と浩は相変わらず保護者目線で安心した。
そして、浩は問題のテストについて、頭の中で整理する。桐間は頭が良い、そして自分で言うのもだが、そこそこできる。
問題は…。
「あー! 龍太助けろー!」
「うるせぇ、こっちが助けて欲しいぐらいだっつーの!」
いつもうるさいはずなのに、今までフリーズしていた龍太が叫びはじめた。一人でこの二人の世話は無理だ、二人を一気に相手をすれば、自分が壊滅的な点数になる。せめて1人。まあ必然的に龍太を見ることになるだろう、と浩は推測した。
「あー哀れだね、本当。馬鹿は大変でかわいそうだ」
「「馬鹿じゃねー!」」
ただでさえ殺気立っている二人に、おもしろそうに桐間が口をはさむと、二人は同じ反応をする。それを見て桐間は笑った。春と龍太は話で気づいていないだろうが、浩はしっかりと見てしまい、戸惑う。
あの、酷い桐間からこの桐間になるとは考えられないな。
今さらではあるが、改めて桐間への春の影響は大きいのだなと分かる瞬間である。そして第三者の視線で見ていた浩が気付いたころには、春と桐間には入れないような空気が流れていた。龍太もこんなときには勘が鋭いようで、椅子から立ち他の友達のところに行こうと思っているようだ。
言っては悪いとは思うが、龍太の友達で勉強が出来るのは海飛くらいであり、あっちグループには大勢いるので海飛だけでは見れないであろう。教科書持ちながらうろうろする龍太に、仕方ないな、と浩は肩を叩く。
「で? なんの教科がだめなんだ?」
「全部」
浩が久しぶりに切れそうになった瞬間だった。
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