「桐間はどんなのあげたいの?」

 半殺しをどうにか逃げ切った春は、恥ずかしがる桐間を後ろに、そう問いかけた。桐間は黙りこむが、なかなか答えは出てこない。本当に人に贈り物をしたことがないのだろう。
 その分、自分から功士に誕生日のプレゼントをあげるなどと考えてくれていたことが嬉しい。春はまたにやけそうなのを堪えながら、桐間を振り返った。桐間も春を見る。

「お前だったら、親になにあげる?」

 質問を質問で返され、春も桐間と同じように考え込んだ。母にはハンカチや花、枕、寝巻きなどあげたことはあるが、父となると少し迷う。清道には春がいてくれればいいなどと、どこぞの彼氏が彼女に言うようなことを吐かれて、今までちゃんとしたものをあげれた試しがない。母に促され、前に灰皿をあげたことならあるが、肝心な功士は吸わないので、参考にはならないだろう。

「うーん、わかんねぇな」
「使えないな。」
「ひどいな! いや、だって母親にあげるようなものしか…花とかさー」

 言った瞬間、桐間がハッと何か閃いたようにこちらを見た。なにかと思えば、桐間はすたすたとデパートの方向に向かいだす。
 まさかとは思うが、花を買う気なのでは。春は早歩きの桐間に一生懸命着いていった。

「どうしたんだよ?」
「もう花でいい」
「やっぱりか…、おい、桐間、功士さんは母親じゃねーんだぞ!」
「いや大丈夫。父親兼母親みたいなもんでしょ。料理上手いし」
「そういう問題じゃないから!」

 と、言っても聞くはずもなく、決めたとばかり言う。だがこれも桐間が考えたものであるし、功士ならばなんでも喜んでくれると春は考えたので何も言わなくなった。
 落ち着いたところで、ふと、龍太と浩といたときに考えていたことを思い出す。聞いてみてもいいかと桐間を見れば、少し上機嫌が伺えたので、春は迷わず口を開いた。

「桐間さ、彼女いたことある?」

 良し、言えた、言えたぞ!
 満足げに言えば、桐間の行動は止まってしまう。なにも言わず、春も止まってしまった。これは聞いてはいけないことだったのか。桐間は、不機嫌な顔で、ない、とだけ返した。

「そうなのか、桐間ならいそう」
「いねーよ、まず女の前に人に触られると虫酸が走るからね」

 確かにそれは付き合えないと、春は納得した。彼女にすれば話す他、触れることも当たり前になる。桐間はそれを気にしているのか。春は桐間に彼女がいなかったことを嬉しく思いながらも、何故人に触れるのがいやなのか気になる。
 やはり母親か、でも母親はなにも…。
 春が様々なクエスチョンを浮かべて考えてる間にそれを読み取ったか、聞いてもないことを桐間は言い出した。




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