「はは、なぁ、顔真っ赤だぞ。心臓も早い」

 いちいち言わなくても!
 思い切り睨むが、桐間は面白そうに笑うだけだ。なんで笑う、春はまた怒りそうになったが桐間が可愛い笑顔で笑っているので許してやることにする。

「ね、怒ってないんだよね」
「怒ってないって」
「ふーん、そっか。」

 言えば、満足したように俺の隣へと移動してきた。さっき離れろと春が言えば怖い顔で無理と言ったのに、よくあんな真顔で嘘が吐けたものである。結局春だけが振り回されているのだ。けれど許してしまう。
 春は不公平、ともう一度思うがまた考えると、さっきと同じようにここに戻ってきてしまうので考えないことにした。
 だが、怒らない代わりに聞きたいことがある。

「桐間」
「あ?」
「なんで、起こしに行っちゃだめなんだよ。」

 行った瞬間、がたん、と電車が揺れた。ドアに寄り掛かっていると言えど、つり革に捕まっていないで話に夢中だった春はバランスを崩して前の人に突っ込みそうになる、と、春の腕を桐間が掴む。
 そして自分側に引き寄せ、春の手を開かせると桐間の背中にあった銀色の手すりを無理矢理持たせる。

「きり、」
「持ってろ」

 桐間の横顔を見上げた。先ほどかわいいと思った笑顔とは違い、凛々しい顔がそこにはある。
 これで好きになるなって方がおかしいよ。俺が女だったら、絶対すぐ告白してるっつーの。
 そう、考えてる間に、春は口を開いていた。

「俺、やっぱり桐間と一緒に登校したい。少しの時間でも居たい。だから起こしに来んなとか言うなよ」

 泣きそうになってるとわかる。春は、桐間のことになると泣き虫になるらしい。桐間は困ったように眉間にシワを寄せた。春はそれを見て、嫌われたと思う。
 だが、その困った顔は、すぐに笑顔にかわった。

「ははは! おっかし! なんでそうなるの」
「え?」
「ただ起こしにくんなって言っただけだけど? つまり誰も一緒に行かないとはいってないよね」

 笑う桐間はやっぱり可愛らしい顔をしていたけど、今は呑気に観察など、春にはできなかった。
 今までそれを理由に怒っていたわけであるし、そして次には泣きそうになり、だが、すべては勘違いである。桐間は笑ったままで、春と同じ手すりに捕まりながら、笑いすぎで涙を目にしていた。

「はは、お前なんかわかんないけど、いつも俺にたいして必死なんだよな」
「もう、笑うなよ! 満員電車で迷惑だろ」

 春が人の目を気にして小声で桐間に言えば、電車は止まる。桐間は春の手を引くと、そこは、目的地の駅だった。春はタイミングが悪すぎる男だったようだ。降りられてしまったら笑われてもなにも言えない。桐間はポケットに手を入れながら、先を歩いた。

「怒ってた理由もそれかー」
「おい! ひきずるなよ!」
「お前、ほんと俺のこと好きだな。」

 得意気ににやり、と笑う桐間を、自分が笑われているのにかっこいいと思う。そんな春はやはり重症で、その笑顔で固まった春を見て、桐間はストーカーとつぶやくのだった。




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