「うえ!? お、おはよう」
「ん」
最近日課になってきていた朝のお出迎え。桐間はいつもは叩き起こさなければ起きないのに、今日はしっかりと春の部屋の玄関の前に立っていた。逆にお出迎えされた、ということになる。
「今日はちゃんと起きれたんだな」
「昨日夕方に寝たから」
「え、あ、そうなんだ」
早く帰ったのってバイトじゃなくて、眠たかったから!?
予想外すぎる理由に、春はかばんを落としそうになった。夕方に寝て朝に起きるって何時間寝ているのか、春も寝るのはすきだが、さすがにそんなに寝れる気はしなかった。
桐間は当たり前のように隣を歩いていて、まだ眠たいのか大きな欠伸をする。それを見て、春は頬を綻ばせた。
なにより春は自分が桐間を勝手に起こしに行き、そのまま登校しているものだと思っていたので、自分で起きれた桐間がわざわざ春の家まで来たのが意外であった。二人で一緒に登校するというよりも、学校に無理矢理連れていっている気でいた春は今回の桐間の行動はとても嬉しいことである。
仲良くなれてるんだよな、おれ。
誰もが知っている事実だが、春は仲良くなる前の桐間も知っていたのでなかなか自分が好かれている気にはなれなかった。今ここで、やっと確認できる。
そういえば、と春は喜びの顔に崩れたまま桐間に話しかける。
「桐間ってバイトなにやってんの?」
「ん、あ、駅前のレストラン。」
意外と早く教えてくれたので、驚きながら相槌をうった。そして春は引っ掛かる。
前、桐間は龍太が触れただけで吐き気をもよおし、ヒトを恐れていた桐間がどうバイト出来ていたのか。レストランで愛想を振り撒く桐間など、想像上はかっこいい。で終わってしまうが、現実的に考えてみるとありえない光景だ。桐間と無愛想はイコールで結ばれている。
春の疑問に気づいたのか、桐間は腕を頭の後ろに組みながら春を見て口を開いた。
「俺はホールに出ないんだよね。キッチンだけ。功士の知り合いのとこだし、別に人と関わんなくてもバイトは出来る」
まあ話し掛けてくる馬鹿はいたけどね。
桐間は面倒臭そうに言う。きっと女の子だろうな、と春は予想しながら、そうなんだと呟いた。春は段々落ち込みそうになるのを押さえて、笑う。
最近、桐間はひどく優しい。それは人に慣れたようで、女の子と付き合ってしまうのではないかと心配なのだ。付き合ったら付き合ったで自分に何も言う権利はない。
そう考えると、優しくない桐間もよかった、と春は思ってしまった。
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