「ああ、そうだな! 浩がフラれた分、おれ頑張るからさ、応援よろしくな」

 にっこりと笑う春に悪意はないが、ずっしりと浩の心には確実になにか重いものが落ちた。
 ああ、俺、この明るく笑うしゅんが好きだったんだよな。
 浩は過去形になっている自分の気持ちに、春の隠れた残忍さを恐れる。それでも落ち込む浩に気付かない馬鹿な二人は、話をどんどんと進めていっていた。

「もう、お前さ、桐間を押し倒せば?」
「色気倒しか! でも俺、可愛くないけどどうすればいいんだ!」
「まーな。けど男なら誘われたら可愛くなくても抱けるぞ」

 春の疑問に龍太はなんとも節操なしの発言をいとも簡単にいい放った。春は真っ赤になって、浩は引いた顔で最悪と呟いた。龍太は自分の発言を悪く思っていないようで、浩の言葉に笑いながら斜め前に座る彼の足を踏みつける。

「ったく、男子高校生なんだから下ネタに免疫ぐらいつけやがれ」

 背もたれに両腕を預けて足を組む様は、さすが不良とでもいうべきか。いつも能天気な龍太でも、やっぱり春と浩とはどこか違う考えであった。
 春はまだ手につけていないポテトを見ながら、ぼんやりと思う。
 桐間は、恋愛とか、今までどうしてたんだろう。
 春とて、恋愛をしたことがないわけではない。実際一年前までは彼女はいたし、今でも仲がいい女の子もいるし、女の子は可愛いとも思う。だが、経験は浅すぎた。
 対して桐間は、あの容姿であれば言い寄られることも少なくはないはずだ。そう思うと、春はネガティブ思考に追いやられるばかりだ。

「…龍太がチャラい、だけだよ」

 もう春の頭には、誰か異性と歩く、桐間しか浮かんでこない。そんなことを考えて暗くなる春に気付き、龍太と浩は自然と目を合わせ、首を傾げる。
 結局、そのまま答えが出ずに浩がバイトだからと言う理由で席を外し、だったら解散するかということで話は終わりになった。

 1人、伸びる影を見ながら春はいつもより少し遅いスピードで歩いた。なにより帰る気すら起きないし、なにをしたいと言うわけではない。
 桐間に会いたいな。
 ふと、春は考える。そういえば、桐間はバイト代がなどと言っていた記憶がある。最近は一緒に帰っていたというのにその素振りすら見せなかったが、浩のことで思い出した。もしかしたら今日も早く帰ったのは、バイトかもしれない。
 だとしたら、どこでなにをしている。それは知らない。よく考えてみればこれだけ近寄れたというのに、いまだに携帯の番号やメアドすら知らないのである。

「やっぱ俺、桐間とは…」

 弱気になりながら、春はためいきをついた。





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